スキー合宿(※R18)

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「さっきの、俺でいいのかってそういうこと?」  眉根がぐっと寄る。あまり見たことのない表情に気圧されて、楓は躊躇いがちに小さく頷いた。 「だっ、だって、廉はもともと男が好きって訳でもないだろ。それで女の子大丈夫になったんなら……俺のこと、どういうふうに見えるのか、気になって……」 「なんでだよ。楓は楓だろ。なにも変わんないよ」 「変わったよ‼︎」  咄嗟に出た声は、自分でも驚くほど悲痛な響きがあった。廉も驚いている。 「楓......?」 「......変わってきてるんだ。俺たちが初めて会った時——廉から可愛いって思ったって言われた時とは。あれから背も伸びたし、最近じゃ顔付きとか体付きも、こんな男っぽくなってきた!」  こんなことを言っているのが恥ずかしいやら、切ないやらで、つい感情的になる。一息に言い切ると、今度は急にへたりと力が抜けた。 「……もう、可愛くなくなってる」  多分、これからもっと。変化はきっと止まらない。  初めの頃、「もし楓が女だったら好きになれてたかも」と言われたあの時の容姿とかけ離れていく。そのことに、この頃ずっと漠然とした不安を感じていた。  あんなに『可愛い』を毛嫌いしていた自分が、今はそれに縋っているのが滑稽でなんだか惨めに思えてくる。気が付けば、視界がうっすらと滲んでいた。  ぐっと奥歯を噛んで俯いていると、廉が静かに楓の目に掛かる前髪を指で分けた。 「可愛いよ」  ぼやけた視界では表情はよく分からない。けれど、その声の響きが自分の心中とは正反対に落ち着いていることに、何故だか妙にたてつきたい気持ちになった。胸の中で渦巻く思いが擦れて、ざらりと音を立てる。
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