もう一つの記念日

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もう一つの記念日

 もうタクシー来てるよ。  そう言ってバタバタと家の鍵を閉める手元で、鍵に付けた古いキーリングが揺れる。    十年の時を経てアクリルの角が削れて少し丸くはなったものの、中に閉じ込められているカエデの葉の瑞々しさに変わりはない。  カエデの花言葉が『大切な思い出』だということは後から知った。  幾らか感慨深い思いに耽りながら、楓は家の前に停められたタクシーに乗り込む。  隣に座った廉が、運転手に「駅まで」と行き先を告げた。 「新幹線の時間、大丈夫かな?」 「まぁ大丈夫だろ」 「だから昨日、早く寝ようって言ったのに……」  言いかけて、ぐっと口を噤む。  廉がそれを横目で見ながら笑った。すっかり大人の男になったパートナーの微笑みは、くらっとくる程色っぽい。 「俺が悪かったよ。ごめん」  一応場所をわきまえ、「何が」という点はぼかしてくれたことにほっとしつつ、楓は話を変えた。 「……スピーチの内容はもう考えてあるのかよ。 メモとか何も無いみたいだけど」 「大丈夫」  頭の中にあるから、と言って、廉は眠そうに欠伸をする。
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