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ふと、楓はボトムのポケットにキーリングを突っ込んだままだったことを思い出した。失くすことのないよう、バッグの中に入れ直す。思い出のキーリングに付いているのは、二人で暮らす部屋の鍵だ。
廉とは、高校二年からこれまでずっと交際を続けている。
共に進学を機に上京したものの、学生時代はともかく、就職してからは忙しさからすれ違うことも多かった。同棲を決めたのはひとえにそんなすれ違いを無くしたかったからだ。
この十年、色々あったが、振り返ればただただどの思い出もかけがえなく、今の生活だって幸せに満ちている。
ふと窓の外を眺める廉に目を向ければ、「なに?」と目線で問い掛けるちょっとした仕草が堪らなくかっこいい。二十代も後半に入り、廉は益々男振りを増してきている。
廉の売れっ子ぶりには作品自体の評価に加え、本人のビジュアルも少なからず影響していることは否めない。雑誌やテレビなどの取材が多いのは明らかにその所為だ。今日のイベントも、地元テレビのカメラが入る予定だった。
「今日のセレモニー、ローカルニュースに流れるみたいだな」
「らしいな」
「トモ、今から録画予約したって。直接見に来てくれるのにな。ハルと子供達も来るって」
「二人目生まれて一年くらいか?」
「そうだね。あと柊馬も来るって。なんでか綾部先輩と一緒らしいけど。廉、なんか知ってる?」
「さぁ。文芸部のメンバーも来るって言ってたし、それで綾部さんも来るんじゃないか。今、こっちの病院で医者やってるらしいし」
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