もう一つの記念日

5/5
前へ
/193ページ
次へ
「……廉も、あの号入れたの」  聞くと、イエスの代わりに微笑まれた。 「思い出深い号だし。あの時の文化祭、記念日みたいなもんだろ」 「......まぁね」 「それにしても、二人とも同じの入れてたって、なんか感じないか? 運命?」 「運命って......おまえ。何言ってんだよ」  前にはタクシーの運転手がいる。なんてことを言うのかと廉を小声で叱りつけるが、廉は悪びれない。  わざと溜め息をつきながらそっぽを向くと、シートの上、バックミラーに映らない位置で手が触れた。 「今日......渡したいものあるから」 「え?」 「さっき言ったろ。十年後も、楓と一緒に来るって思ってたって。あれ、冗談なんかじゃないって、証明になるもの」 「部誌と一緒に何か入れてたのか?」 「……掘り起こされるの、待ってて。十年前の俺からの——……」  そこまで言って、かくんと廉が船を漕いだ。ちょっと、と声を掛けたが、返事が返るより先にすぅすぅと静かな寝息が聞こえ始める。 「なんだよ……」  楓は口を尖らせながらも、うずうずとする頰に手を遣る。押さえていなければ、高く上がってしまいそうだ。  今はまだ土に眠る、過去の自分達からの贈り物に思いを馳せながら、楓は眠る廉の手をそっと握り返した。                〈了〉
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

822人が本棚に入れています
本棚に追加