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「……廉も、あの号入れたの」
聞くと、イエスの代わりに微笑まれた。
「思い出深い号だし。あの時の文化祭、記念日みたいなもんだろ」
「......まぁね」
「それにしても、二人とも同じの入れてたって、なんか感じないか? 運命?」
「運命って......おまえ。何言ってんだよ」
前にはタクシーの運転手がいる。なんてことを言うのかと廉を小声で叱りつけるが、廉は悪びれない。
わざと溜め息をつきながらそっぽを向くと、シートの上、バックミラーに映らない位置で手が触れた。
「今日......渡したいものあるから」
「え?」
「さっき言ったろ。十年後も、楓と一緒に来るって思ってたって。あれ、冗談なんかじゃないって、証明になるもの」
「部誌と一緒に何か入れてたのか?」
「……掘り起こされるの、待ってて。十年前の俺からの——……」
そこまで言って、かくんと廉が船を漕いだ。ちょっと、と声を掛けたが、返事が返るより先にすぅすぅと静かな寝息が聞こえ始める。
「なんだよ……」
楓は口を尖らせながらも、うずうずとする頰に手を遣る。押さえていなければ、高く上がってしまいそうだ。
今はまだ土に眠る、過去の自分達からの贈り物に思いを馳せながら、楓は眠る廉の手をそっと握り返した。
〈了〉
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