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「千晶さん」 「……はい」  まるで、怒る姉と怒られる弟のようだな。  心の中でそう思いつつ、霞は「私が望む言葉は、ただ一言、『はい』。ただそれだけです」と言う。  そのまま彼を霞の自室に放り込み、扉前に立ちふさがる。 「私、この遊馬の家を出て行くことにしました」 「……はぁ?」 「というわけで、千晶さん。私との婚約関係、解消しましょうか」  ただ淡々と。  業務連絡とばかりにそう言えば、彼がその目を真ん丸にする。  ただでさえ整った顔立ちを持つ千晶だ。そんな表情を見てしまえば、大体の女性はいちころなのだろう。ギャップ萌えとか、そういう奴なのかもしれない。 「い、いや、ちょっと待って。話が……見えなくて――」 「私が望む言葉は一言、『はい』。それだけだと、言いましたよね?」  そもそも、この婚約解消の理由は千晶の日ごろの行いなのだ。  だから、長々と話をするつもりはない。そう思っていたのに、彼は「どうしてそういうことになるんだよ!」と霞に詰め寄ってくる。 「……自分の胸に、問いかけてはいかがですか?」  冷たい声でそう告げれば、千晶は下唇をかみしめていた。  もしかしたら、霞がこんな風に言うとは思わなかった……の、かもしれない。彼はもしかしたら、霞のことを舐めてかかっていたのかもしれない。 「お義父様には、千晶さんが納得すれば婚約関係の解消は認めると言質を取っております。ですので、ご心配なく」  そっと目を伏せてそう言えば、千晶は押し黙ってしまった。  しかし、すぐに霞の目をまっすぐに見つめてくる。 「……本気?」  そして、そう問いかけてきた。
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