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それから一体どれほどの時間が経っただろうか。
壁掛け時計の針が音を鳴らす中、霞はうつろうつろしながらも必死に起きていた。
眠い目をこすり、時計を見つめれば時刻は夜の十一時半。そろそろ日付が変わる時間帯だ。
そもそも、今日千晶が帰ってくるのかどうかは分からない。これは、いわゆる懸けだった。
(けれど、いつまでもこのままでいいわけがない)
そう思うからこそ、霞は眠い目をこすりつつも千晶の帰りを待つ。
そして、それからちょうど二十分ほどが経った頃だろうか。部屋の扉がノックされ、「霞様」と声が聞こえてくる。
「……美也子?」
驚いて声を上げれば、扉を開けて美也子が顔を出す。彼女は「……千晶様が、おかえりになられましたよ」と小さな声で告げてくる。
……どうやら、彼女も起きて待っていてくれたらしい。
「……ごめんなさいね、付き合わせてしまって」
首を横にゆるゆると振りながらそう言えば、彼女は「いえ、私と霞様の仲ですので」とにっこりと笑いながら言ってくれる。
「何か重要なお話があるようですので、私はもう部屋に戻ります。……どうか、ご無事で」
その「ご無事」は一体どういう意味なのだろうか?
そう思いきょとんとしてしまうが、そんなことよりも。
そんな風に思い、霞は自室を出て行きキッチンの方に向かう。千晶は帰ってくると大体まず水を飲みにキッチンに向かうのだ。それは、幼い頃から変わっていない。
抜き足差し足で移動していると、まるで泥棒にでもなったような気分だった。自分が住んでいる屋敷なのに、深夜になるとまるで別世界のような雰囲気に見えてしまう。
(……千晶さん)
心の中でそう唱えながらキッチンに向かえば、明かりがついていた。
それから、冷蔵庫の前でがさがさと動く男性の姿。……やはり、千晶は帰ってくるなり水を飲んでいたらしい。
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