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「あー」  何か唸っているようにも見えるが、そんなこと霞はお構いなしだった。  ただ一言、自分の意見を伝えて了承をもらえばいいだけなのだから。  そう思うからこそ、霞は一度「ふぅ」と息を吐いて千晶の肩をたたく。 「うわぁあっ!」  そして、大げさに驚かれた。  普通に考えれば、深夜に誰もいないと思っていたところから肩をたたかれたのだ。驚くのも当然だし、絶叫するのも当然である。 「しぃ」  しかし、霞の頭はそこまで働かなかった。そのため、人差し指を唇に当てて声を抑えるようにとジェスチャーで伝える。 「……霞?」 「えぇ、そうです」  少しだけ表情を緩めながらそう言えば、千晶は「なんだ、霞か」と言って胸をなでおろす。どうやら、相当驚いていたらしい。 「千晶さん。少し、お話があります。時間をいただけますでしょうか?」  羽織った上着を握りしめながら、霞はそう言う。すると、千晶は「……まぁ、いいけれどさ」と零して立ち上がった。 「その話、長くなる?」 「いえ、そこまで長くはなりませんよ」  千晶の問いかけに端的に返事をすれば、彼は軽く頭を掻いた後「……ちょっと着替えたいし、部屋で待ってなよ」と言ってきた。  が、ここで逃げられたらたまったものではない。そう思うからこそ、霞は「逃げませんよね?」と首をかしげて問いかける。 「……ぅ」 「逃げるつもりだったのでしょう?」  その態度はまさにそういうことだった。  それを理解し、霞は千晶の腕をつかんで引っ張っていく。  ゆっくりと歩いていると、千晶が後ろから「何処に行くんだ?」と問いかけてきた。だからこそ、「私の部屋です」と端的に答える。 「って、こんな時間に……」 「だって、千晶さんが帰ってこないのですもの」  ゆるゆると首を横に振ってそう言えば、彼は言葉に詰まってしまった。
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