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その千晶の目が何処となく恐ろしく感じ、霞が息を呑む。
けれど、ここで引いてしまえば何も変わらないと思った。
実際、ここで本気でないと嘘をつけば、ことは丸く収まるのだ。が、霞としてはそうはいかない。千晶の足かせには、なりたくないのだ。
「……えぇ、本気、です」
彼の目をまっすぐに見つめてそう言えば、彼は「……そっか」と言って肩の力を抜く。
どうやら、感じた恐怖は気のせいだったらしい。それにほっと息を吐けば、千晶は「でも、嫌だ」と告げてきた。
「俺は霞との婚約を解消しないよ。……俺が納得しなかったら、婚約関係は続行だよね?」
千晶は何でもない風に、さも当然といった風にそう言ってくる。
それに驚いて目を見開けば、彼は「俺、霞のこと好きだし」と世間話の一環とばかりに自らの気持ちを伝えてきた。
「……こんなときに、そんな冗談は――」
――よしてほしい。
そう言おうと思ったのに、言えなかった。
霞の身体を背後の扉に押し付け――千晶がその唇をふさいできたからだ。……口づけだった。
「んんっ!?」
驚きからか、さらに大きく目を見開いてしまう。
そんな霞の気持ちもお構いなしに、千晶はうっすらと開いた霞の唇に自身の舌を差し込む。
「んんっ! んぅ……!?」
口内を蹂躙するのは、自分のものではない他人の舌。
その異常性に霞が身を震わせていれば、千晶の手が霞の後頭部を固定してきた。
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