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「千晶さんは、私のことが嫌いなのです」  ゆるゆると首を横に振りながら、もう一度そう繰り返す。  彼が中学に入った頃からだろうか。それまで懐いてくれていた千晶は、霞を避けるようになっていた。挨拶もせず、すれ違うことさえない。同じ屋敷で生活をしているというのに、千晶は霞のことを徹底的に避け、会わないようにとしていたのだ。  挙句の果てに、大学生となった彼は屋敷にもほとんど帰ってこなくなった。義父は「どうせ幼馴染のところだよ」と言ってのんきにしていたが、霞からすればそうはいかない。 (どうせ、可愛らしい彼女でもできたんでしょ? 私のこと、邪魔だと思っているのよ)  千晶はモテる。軽薄そうな見た目と明るい性格から、何をせずとも女性が寄ってくるのだ。  何年か前。千晶に彼女が出来たという噂を聞いた。……あのとき、霞は少なからずショックを受けた。  正式に婚約していないとはいえ、彼と自分は婚約者なのに、と。  そんなことを思って、一人傷ついた。 「……霞」 「元々、私のことが気に入らなかったのでしょう。だって、突然親に婚約者だよと見知らぬ女性を紹介されたところで、困るのがオチですもの」  苦笑を浮かべながらそう言えば、義父は何とも言えない表情をしていた。  上流階級で生きてきた彼にとって、霞の言葉は目からうろこだったのだろう。 「……私、千晶さんの邪魔にはなりたくありません。今まで育ててくださった恩をあだで返す形になりますが、どうか前向きに考えてくださると幸いです」  頭を下げて、そう言う。  すると、義父が息を呑んだのがよく分かった。
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