1383人が本棚に入れています
本棚に追加
今の時刻は午後八時。
夕食を終え、そろそろ自室に戻って明日の仕事の準備をした方が良いだろう。
それはわかっていた。……が、霞はそうとは思えない。
(千晶さんを、なんとしてでも捕まえないと)
ぐっと手のひらを握り、霞はそう思う。
「ねぇ、美也子」
「はい、霞様」
そう思ったら、近くに控えていた使用人に声をかけていた。彼女はここに来た霞の世話役を任せられてきた、美也子という名前の女性である。年齢は五十手前であり、霞のことをよく可愛がってくれた人だ。
「千晶さんは時折戻ってこられるけれど、その時は何時ごろに戻ってこられる?」
千晶は屋敷に戻ってきても、大体深夜である。霞は明日の仕事の邪魔にならないようにと、出来る限り早めに眠るようにしている。だが、それでは千晶を取っ捕まえることが出来ない。
「そうですねぇ……。まぁ、大体日付が変わるか変わらないか、くらいでしょうか……」
その言葉を聞いて、霞は「じゃあ、私これから毎晩そこまで起きているわ」という。
「千晶さんをとっ捕まえて、このお話をしないことには何も始まらないの」
「……ですが、霞様」
「大丈夫。お仕事には支障をきたさないようにするわ」
美也子がそういう意味で心配しているわけではないことくらい、霞だってわかっていた。
けれど、誤魔化すようにそう言えば、彼女は「……でしたら、私から言うことは何も」というだけだ。どうやら、霞の決意を尊重してくれるらしい。
最初のコメントを投稿しよう!