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 今の時刻は午後八時。  夕食を終え、そろそろ自室に戻って明日の仕事の準備をした方が良いだろう。  それはわかっていた。……が、霞はそうとは思えない。 (千晶さんを、なんとしてでも捕まえないと)  ぐっと手のひらを握り、霞はそう思う。 「ねぇ、美也子(みやこ)」 「はい、霞様」  そう思ったら、近くに控えていた使用人に声をかけていた。彼女はここに来た霞の世話役を任せられてきた、美也子という名前の女性である。年齢は五十手前であり、霞のことをよく可愛がってくれた人だ。 「千晶さんは時折戻ってこられるけれど、その時は何時ごろに戻ってこられる?」  千晶は屋敷に戻ってきても、大体深夜である。霞は明日の仕事の邪魔にならないようにと、出来る限り早めに眠るようにしている。だが、それでは千晶を取っ捕まえることが出来ない。 「そうですねぇ……。まぁ、大体日付が変わるか変わらないか、くらいでしょうか……」  その言葉を聞いて、霞は「じゃあ、私これから毎晩そこまで起きているわ」という。 「千晶さんをとっ捕まえて、このお話をしないことには何も始まらないの」 「……ですが、霞様」 「大丈夫。お仕事には支障をきたさないようにするわ」  美也子がそういう意味で心配しているわけではないことくらい、霞だってわかっていた。  けれど、誤魔化すようにそう言えば、彼女は「……でしたら、私から言うことは何も」というだけだ。どうやら、霞の決意を尊重してくれるらしい。
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