春を告げる想い

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ここ数日、声が聞けていない 「……忙しいのかしら、最近電話でてくれないわねえ」 メッセージで今日ははやく寝ますとか来てるから 自然消滅をねらっているわけではないのはわかるのだが、なにか電話できない理由でもあるんだろうか、と思考が嫌な方に傾いてしまう。 ただでさえ自分たちは不安定な関係だ だからちょっと束縛気味になってしまうのかもしれない とくに、海音ちゃんは社会人になって化粧の特訓をはじめたらしく、たまにやったビデオ通話では本当に、さらに綺麗になっていて驚かされた。 あれじゃ男が放っておかないかも。 あぁ、ちなみに私は女性のようなアイシャドウやアイラインなどの化粧はしていない。スカートとかもはかないし 見た目普通の成人男性だ。喋るとちょっとアレなだけで。 女装も一時期はやったがなんか違うなと思ってやめた。中身が女のくせにそれはなんかちょっと違うというか この体格でフリフリのスカート着ても似合ってないし、それならせめて色が明るい浴衣とか そういうほうがまだ似合う。 自分が一番キレイに見える姿で居ようと思うのだ。 あくまで男としてのこの外見の自分を自分と受け止めたまま、そして男としてのプライドや喜びも知ってるまま、ただ男になりきれない。 どっちつかずの存在というか。 だから、性転換しようと思ったことも、あまりない 取る気はないのである もし男相手にガチ恋したら取ってたかもしれないが ……そんな機会はなかった。 ただ、女装はしなくても 喋り方や、綺麗に手をそろえたり、足をとじたり 座ったりする、女性特有の仕草が品があるというか そういう風に生きたいと思う。 いくら男らしいからって電車で大股開けて座るおっさん見てると、うわってなっちゃう。 私の言動は、とりあえずそんな感じ じゃあ……恋愛対象は? 露出した風俗嬢の写真をみてみても一ミリもそそられず、男のヌード写真のほうは ちょっと見て、また目覚めたくないなと思い視線をそらす。 はやく恋愛対象を女性にしなくては……。 海音ちゃんと距離が多少離れてはや半年。 なかなか男にはなりきれない それでも 海音ちゃんを失うのだけは、ただただ嫌なままで。 わがままだな 大人のくせに 「……?」 海音ちゃんから連絡がきていたんだろうか 通知があったので見てみると、ショートメールが来ていた。 『彼女に追い出された〜助けて〜』 ……元彼だ。 ブロックしたはずだが……ショートメールという手があったか。 そっちもブロックしなきゃなと思い 疲れたので横になった。 連絡がほしいのはお前からじゃないんだよ 畜生。 『わたし、もう無理です』 『え、どうしたの?海音ちゃん』 『普通に、まともにわたしを好きになってくれる人をみつけました わかります?好きな人にそういう目でみられないって想像以上にきついんですよ もう、待ちたくもありません さようなら』 「ま、待って!!」 叫び、がばっ、と起き上がる。ソファで寝ていたらしい 頭だけ落ちてたのでズキズキと痛んだ。 最悪の寝起きだ。 カレンダーをみると今日の日付に丸がついている そうだ、今日は互いに休みなので月1のデートの日だ。 楽しみにしてて、服ももう出してある ただ、楽しみと同時に震える。直接会って終わりにしよう、という日になるかもしれないから 「どうしよう……そうだ」 とりあえず十種類ほどあるピアスから 恋愛運のパワーストーンでてきたものを耳につけてみる うん…… 「頑ばるべき場所絶対ここじゃないわよね」 わかってるけど、神頼みしかできないのだ。 待ち合わせ場所、海音ちゃんはうつむき立っていた。 私がみえると、ぱっと顔をあげてくれたのが嬉しい。髪がハーフアップで、目元がキラキラとオレンジ色のラメで光っていた。 「おまたせ、服装かわいいわね じゃあ、行きましょうか」 「綾人さんもピアスかわいいです!ピンク似合う!」 「本当?うれしいわー」 今日は遊園地の予定だ。 遊園地ていいわよね、なんか交際したてのカップルが頑張って行く感じの 「なに乗ろうか?」 「綾人さんはジェットコースター大丈夫なタイプですか?」 「私は基本なんでもいけるわよー」 といいつつ、早速二人でシナモンの香りのするチュロスを食べ始める だって美味しそうで……。 園内のカップルベンチは、わざと傾いていて、座ると二人の距離が近くなるようになっていた。 椅子としては欠陥品な気がするけど、よく考えつくわよねこういうの。 「チュロスてどうやって作るのかしらね」 「店に出すんですか?」 「いや……揚げ物は面倒だから……」 「わかります……」 海音ちゃんは普通に話しながらも、いつもより少しだけ元気がなかった。 「あのね……綾人さん……」 「ん、なあに?」 ひやっとする、あれ、もしかして言いづらい事がある……?まさか 「「……なんか乗りに行かない?」」 話を中断したくて、怖くて。 同時にそう提案し、おもわず選んだのはめっちゃ回転するブランコだった。 そんなまわる?てくらい。 「びっくりした 私ピアス取れてない?」 「わたしもなんかありとあらゆるもの飛んでいったような気がします」 「あの宙を回転するブランコそのまま取れたらどこまで吹っ飛んでいくんでしょうね……」 そこから、お化け屋敷にジェットコースターに ただぬいぐるみが踊るショーをみて……。 夕方になっていた。 「おそろいのキーホルダー買いましょうよ」 「いいわねぇ」 「こ、このハートのとか……」 「うん、カップルらしくていいわね」 ちょっと学生カップルぽいけどね。 でも学生のころこんな思い出はなかった。 遊園地をまともに人と楽しんだの、はじめてだ。 家族とはそもそもこういうとこ来なかったし……元彼、石田尚とも。 なんか別行動、とかいって私を置いていつのまにか先に帰ってたし。 ろくな思い出ないな私 子供向けって思ったものも横で楽しんで、笑ってくれているだけで、こうも感じ方が変わるとは 「あ、わたしトイレいってきますねー」 「あぁ、じゃあ私も行こうかしら」 「……そういえば綾人さんって男子トイレ入るの本当は嫌とかあります?」 「……ないわね、だって私外見男だもの 性別が外見と中身で合わない辛さはわかるけど だからって中身女なんです〜とかいう理由で女子トイレ入ることが許されたら世の中の女の人恐怖でトイレ利用できないわよね」 「……たしかに、ビビリますね」 「でしょう? 他の人からしたら知らないものそんな事情。 世の中が性自認に配慮した表記進めてくれればいいけど、それまでは多目的トイレとか使うべきよね」 「あぁ……私綾人さんのそういうとこ好きです……」 「ゔっ、そ、そう? ……とりあえず、はやくトイレ行きなさいな」 「はーい」 好きと言われるとドキドキする はやく同じ言葉を返したいと思う。 この状態が奇跡のようなものなのだから きっと、長くは続かない 今日みた夢のようになってしまう。 トイレから出て、手をふく 「海音ちゃん、おまた……せ?」 あたりを見回すと彼女の姿はなく…… どこで待っているのだろうと思い、私はスマホを見た。 ショートメールが来ていた。 「!!」 石田尚から。 『いま海音さんと居る』 怒りが、込み上げてくる 何度も電話をし、繋がらず舌打ちをして メッセージを送る 『いまどこだ 手を出したら許さない』 返事はなかった こんなのと付き合ってた自分へも怒りがわく。 このままでは……海音ちゃんが危ない。
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