二人の鮭

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「中館さんは梅干しと白米でいいですよね。梅干しのおにぎりをおかずに白米のおにぎりを食べる」  普段より大きめの水瀬の声と、それを聞いて愛海が吹き出すのが聞こえる。ひよりの前では中館がわずかに眉を寄せている。  水瀬はどんな時でも中館をいじらなければ気が済まないのは知っているが、そもそも―― 「……白米のおにぎり、ありませんよね」  ひよりの代わりに、控えめに反論するのは亜咲だ。  えんでは白米のおにぎりは商品化していない。 「商品化してみたいと思っていたので、つい先走ってしまいました。失礼しました。鮭二つと昆布、雑穀あたりですか?」 「えぇ、お願いします」  ――あれ?  水瀬と亜咲の会話に何か引っかかりを覚えるも、何か思い出せない。水瀬がレジを打つ音や亜咲がバッグを探る音がする中、舞が口を開く。 「……一人で頑張るしかないでしょ」  舞が唇をかみしめて、中館を睨みつける。 「自分以外に信じられる人間なんて、私たちにはいないんだよ」 「舞……」  亜咲の悲し気な声に、舞は顔色を失うと再度唇をかみしめて立ち上がるも、ふらりとその体が揺れる。 「舞さん!」  ひよりが手を伸ばしたのと、舞がテーブルに手をついたことで、舞は床に体をつくことはなかったが顔色は悪い。 「舞?」 「舞さん、大丈夫?」  亜咲とひよりに立て続けに問われた舞は、返事をする代わりに鬱陶しそうに片手をあげる。 「もー、だから言ったのに。言ってないけど」  みんなが舞を心配する中、愛海は唇を尖らせてスマホを操作する。
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