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お盆とお正月の帰省ラッシュのニュースは毎年目にする。新幹線で帰省してきた孫と、仙台駅に孫たちを迎えにきた祖父母が再会する映像も定番だ。親戚一同ほぼ県内在住のひよりにとって、帰省ラッシュはテレビの中の出来事に思えてしまう。
おそらくお盆の時期に休みを取っているのだろうが、社会人の休暇事情は分からない。
「田辺医院(うち)はお盆も正月もやってるからね。ただ連休とか休みは取れるから、子どもの夏休みに合わせて連休を取る人たちもいるし、時期をずらして旅行するのに安い時期に取る人もいるよ」
「ホワイトですね」
「私たち医療従事者が体壊したら本末転倒よ。どんな仕事も間違いは許されないだろうけど、私たちは命に係わる仕事だからね。仕事は全神経集中させてやるけど、休むときはしっかり休むがモットーだから」
由梨がさらっと話す。妙に気負うこともなくさらっと言うことに、由梨の仕事に対する誇りを感じる。自分の仕事に責任を負っている社会人の姿だ。
「由梨さん、カッコいい」
「突然、何? どうしたの?」
「プライド持って仕事してるんだなあって」
ひよりが尊敬の念を込めて言うと、由梨は苦笑をこぼす。
「本当に命を預かっている先生たちに比べれば、私の仕事って大したことないと思うんだよ」
「そんなことは……」
病院に行って、最初に対応してくれるのは受付にいる事務員だ。彼女たちが優しく「今日はどうしましたか」と聞いてくれるのから始まり、医師の診察を受け、会計を終えて「お大事に」と言ってくれる。そのあと調剤薬局に出向くという場合もあるものの、「お大事に」の一言で安心してしまう。特に一人暮らしで病気をして弱った心には「お大事に」という一言が薬にさえなるだろう。
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