二人の鮭

37/45
32人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
 舞が体調不良だったにも関わらず、ひよりは大量に買い込んできてしまった。舞が食べられない分、愛海が気を遣っているのではないか。舞もひよりに気を遣って、無理に食べようとするかもしれない。 「舞さん、無理して食べなくて大丈夫だからね」 「いやいや、ひよりさん。舞さん、空腹すぎて倒れたんだってよ」 「……は?」 「下まぶたの裏が白かったから貧血だとは思うよ。だけど空腹ってのもあるんだって。朝抜き、お昼に学食で私たちと一緒になった時に定食とか丼もの食べればいいほうで、基本コンビニでパン調達でしょ。夜は賄いあるときは食べてって生活。昨夜、賄い食べてから二十四時間ぶりの食事だって」 「二十四時間ぶり……?」  驚愕で目を見開くひよりに、舞は居心地悪そうな顔をする。ひよりならその半分、十二時間でも持つかわからない。 「無人島で自分で採取したもの以外、口にしてはいけないって番組じゃないのにね。おにぎり、何があるんだろ」  舞が箸を置き、おにぎりが入ったビニール袋をさかさまにする。鮭と昆布、雑穀にかつおと高菜と見知ったラインナップが転がり落ちてくる。 「私、高菜食べたことないんだよね。高菜にしよ。……早い者勝ちね」  すでに高菜を手にしてから牽制する愛海に苦笑してしまう。 「好きなの食べなよ。誰も取ったりしないって。舞さんは?」  舞に話を振ると、舞はおずおずと鮭に手を伸ばす。 「タンパク質で選んでる?」  愛海に苦笑して首を振ると、舞は鮭のおにぎりに目を落とす。 「……亜咲ちゃん、鮭のおにぎり二つ買ったよね」 「うん。鮭と昆布に雑穀かな」 「あの時、もう亜咲ちゃんは別の世界の人なんだって思ったんだよね」  部屋に沈黙が落ちるも、それを早々に破ったのは愛海だ。 「舞さん、ごめん。私、鮭のおにぎりと別世界のつながりがわからない。鮭のおにぎり食べると、別世界に転生するとかそういうあれ?」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!