二人の鮭

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 舞は別世界転生の話を知らないらしく、眉を顰めるも首を振って否定する。ひよりも詳しくはないが、別世界に転生する漫画やアニメが最近の流行らしい。 「亜咲ちゃん、誰かと一緒の時は鮭のおにぎりを食べないんだ」  舞の説明で、ひよりも亜咲が話していたことを思い出す。店での水瀬と亜咲のやり取りで引っかかったのはそこだ。 「なんで?」 「お母さんに置いていかれたときに駆け付けてくれたお巡りさんが『大丈夫だよ』って、鮭のおにぎりくれたんだって。それから、大丈夫って自分に言い聞かせたいときに一人で食べるって言ってた」  ひよりが以前、亜咲から聞いた話と同じだ。  えんでも中館と偶然会うまでは、一人で鮭のおにぎりを食べていた。 「それ聞いたらさ、結局、人間は一人なんだなって思ったんだよね」 「……うん。それで別世界は?」  急かす愛海に、舞は苦笑を返す。リラックスしたのか、舞の顔色はだいぶ良くなった。 「鮭のおにぎり二つ買うってことは、一つずつ食べるってことでしょ?」 「普通に考えれば、ね」 「中館さん、そこまで鮭大好きって人じゃなかったと思うよ」  仲良く鮭を一つずつ食べて、残りは「どっちがいい?」なんて亜咲に聞かれているのかもしれない。そんなことをしていることが水瀬の耳に入ったら最後、中館がからかわれるのは明らかだ。 「亜咲ちゃんは、もう自分に大丈夫って言って聞かせなくてもいいんだ」  舞が淋し気に息を吐く。  誰かと一緒の時は鮭のおにぎりを食べないと言っていた亜咲だ。その亜咲が鮭のおにぎりを二つ買った。  それは自分に大丈夫と言って聞かせなくても、大丈夫だと思わせてくれる存在がいるからだ。 「要するに、舞さんは淋しいんだね」 「……は?」  うんうんと頷く愛海に、舞は眉間のしわを深くする。  ――こういうところ、中館さんと同じだ。
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