二人の鮭

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 そうは思うものの、口にしたら舞の眉間のしわはさらに深くなり、愛海は手を叩いて喜びそうだから黙っておく。なんとなく、愛海と舞が水瀬と中館に見えてきたひよりだ。 「自分と同じような立場で、姉のように慕って、一緒に――それぞれ一人で――頑張って生きてきた姉御さんだよ。その姉御さんが舞さんをおいて、誰かと一緒に人生を歩いていくことを決めた。自分だけおいていかれたみたいで、淋しいんじゃない?」 「それは……」  舞が考え込む。  そんな舞を前に愛海はおにぎりを口に運び、ひよりにも食べるよう勧めてくる。愛海は気心知れた人の前ではマイペースだ。  ひよりも自分の分の昆布のおにぎりを取り、まだ温かい味噌汁に口をつける。寒くなってくると、温かいものが染み渡る。 「そう、だな。でも亜咲ちゃんは私と違って、誰かと人生を歩いていくんだろうなって思ってたんだよ。私は一人でも生きていけるけど、この人は違うって。正直、亜咲ちゃんを心のどこかで見下してた」  舞の告白に、ひよりの手がとまる。見下していたとは穏やかではない。 「だから施設出てからは、誰にも頼らずに生きて行こうと思った。その結果がこれだよ。周りに迷惑かけて……結局、亜咲ちゃんに心配させた」 「舞さん……」  舞が自嘲し、唇をかむ。  一人で頑張っている舞に何と声をかけるべきか。  ひよりは一方的に親元を飛び出してきた。舞のように最初から頼るべき人がいないのではなく、進学を反対されたことに対して反発してきた、いわゆる家出娘状態だ。それでも影ながら気にかけてくれている父と、親に代わって支えてくれる祖母家族がいる。  それがどんなに恵まれたことなのか気づくのは、支えてくれた人がいなくなってからだ。 「心配かけたって思うなら、行けばいいんじゃない?」 「どこに?」  舞の告白に動じることなく食事をしていた愛海が口を開くも、その発言は肝心のところを飛ばしている。
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