二人の鮭

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「施設? 園長先生が心配してるんでしょ?」 「私、法に触れるようなことはしてないし」 「知ってるよ。中館さん、だっけ? 姉御さんの彼氏が言ってたじゃん。一人で頑張りすぎるって。誰かと同じでとか言ってたけど、あれ、姉御さんのことだよね。本人の耳に入らないように声落としてたし」  前半を舞に言った後、愛海は目を輝かせてひよりに話を振る。恋バナが好きな女子大生の目だ。多分ね、とひよりが答えれば愛海は舞に向き直る。 「私たちは舞さんと一年くらいの付き合いしかないから、舞さんは頑張り屋さんなんだって認識している。だけど長い付き合いの人たちはそうじゃない。舞さんが百面相して一人で頑張りすぎって思ってる」 「……それ、私が空回りしてるだけじゃん」 「まあまあ、心配してくれるうちが花だよ。なんなら私もついて行こうか?」 「愛海、関係ないでしょ」 「舞さんの友人です」  ひよりのツッコミに胸を張る愛海を見て、舞がふっと力を抜いて微笑む。 「わかったよ。来たいならくればいい。……多分、その方がみんな安心するだろうから」 「本当!? やったー」  愛海がおにぎり片手に、舞に笑顔を見せる。 「そうと決まったら、ご飯食べよう。冷めちゃうよ」  愛海が仕切り直し、各々食事を再開させる。  亜咲と中館の同棲は置いておくとして、二人が心配していた舞の件が片付いたようでほっと胸をなでおろす。ふと舞を見れば、手にした鮭のおにぎりをじっと見ている。おにぎりには一口だけ口をつけた後がある。 「舞さん、どうしたの?」  口に合わなかっただろうか。そうでなければ異物混入かと身をこわばらせる。 「亜咲ちゃんにとって、鮭おにぎりは別物になるんだろうなって思ってさ」 「別世界の次は別物だよ」  愛海の呟きに苦笑がもれる。 「今までは大丈夫って自分に言い聞かせるためだったけど、これからは……中館が思い浮かぶのかって思うとちょっとむかつくんだけど」
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