二人の鮭

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「じゃあ、舞さんにとっては鮭のおにぎりは何になるの?」  愛海に問われ、舞がぽかんとした顔をする。舞が口を開く前に、愛海は続ける。 「わたしたちとの絆。舞さんが嫌でもつるんじゃう腐れ縁」  にっこりと笑う愛海に、舞は毒気の抜かれたような顔をして苦笑する。 「物好きだな。ま、中館との腐れ縁よりかいいか」 「舞さん、本当に中館さん嫌いだね」  上司や後輩からの信頼は厚いようなのに、亜咲以外の女性にはどうも好感を得られない中館だ。 「えー、妹分的に姉御さんを盗られたような気分になるのはわかるけど、大事にしてくれそうじゃん。他の男がよかったの?」 「いや、逆に身バレしてるから安心。何かあったら文句言えるし」 「文句言うだけで済む? 鉄パイプ持って殴り込みとかしないでよ」 「場合による」  茶化した愛海に、舞らしい何とも男前――物騒――な回答を口にし、でもと続ける。 「中館なりに亜咲ちゃんのことを心配して、きちんと考えてくれてるんだよな。仕事終わりで寄れるってことは、職場が近いんだろ?」 「近い。それにうちのパートさんの娘と同級生だし」 「そっか。店長がかまってちゃんでも、お母さんみたいなパートさんとしっかり者のひよりがいるから安心ってことか。いざとなったら、自分が走って駆け付けるし、って?」 「中館じゃなかったら、もっと絵になるんだけどな」  舞がため息をついて、おにぎりにかぶりつく。亜咲の妹分の舞としては、いろいろ思うところがあるようだ。 「彼女の危機に汗一つかかず颯爽と現れるイケメンなんて、定番すぎて面白くないじゃん。むしろ眉間を寄せがちな強面の方がいいよ。恋愛対象外とみなしていた女の子に押し切られて……って展開の方が萌える」 「それ、中館さんと亜咲さんのまんまじゃないの?」 「何それ、めっちゃ萌える。映画化しようよ」  当事者の知らぬところで、勝手にキャスティングの話で盛り上がり、愛海宅での夜は楽しく更けていった。
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