39人が本棚に入れています
本棚に追加
秋が深くなるにつれて、気温も低くなってくる。特に夜は豚汁や鍋など、温かいものが恋しくなる季節だ。
「豚汁だ」
アルバイトを終え、水瀬家の居間で賄いと称した福子の料理にありつく。今日のメニューは豚汁に筑前煮とおひたしと野菜がたっぷりだ。主食のおにぎりは珍しく売れ残った鮭である。
「福子さんの料理はなんでもおいしいですけど、豚汁は人気ナンバーワンですよ」
「そうなんですか」
「えぇ。今日の汁物は何か、お昼によく聞かれるんですよ。なので、どこかに書いておいた方がいいのではないかと、昼間に福子さんと野村さんが話していました」
「あぁ……」
亜咲の名を出され、ひよりは吐息のような返事を口にする。
おそらくその提案をしたのは亜咲だ。ひよりと違って社会人経験があるからか、亜咲はひよりが気づかないところに気づき、改善提案ができる。
えんで働き始めたのはひよりの方が先だ。それでも細かいところには目が行き届いていない。気づける亜咲に引け目を感じてしまう。
「野村さんのこと、お兄さんのことで気にしてますか?」
「それは……」
全く気にしないとは言えない。亜咲を連れまわして、掛け子の共犯にしようとしていたのは耕太だ。ひよりが亜咲の立場だったら、相手のことをフラットに見ることができない気がする。
「気にしなくていいと思いますよ。あの中館さんを従える野村さんですよ? 中館さんを従えているだけあって、大人ですし」
「……どっちかと言うと、亜咲さんがきちんと周りを見てくれているのに対し、私は目の前のことしか見えていない気がするんですよね」
それが社会人経験のある人と学生の違いだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!