二人の鮭

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 中館を猛獣のように表現したことをスルーして考えながら、筑前煮の里芋を口に運ぶ。粘り気のある里芋にしっかりと味がしみ込んでいておいしい。福子は調味料をすべて目分量で入れているが、味がぶれることはない。主婦の長年の勘だ。 「亜咲さんは周りを見ざるを得なかったのかもしれませんよ。施設って小さい子から大きい子までいますよね。年齢が上がれば、どうしても下の子たちに目を向けなければなくなるのかもしれませんし。ひよりさんのお友達のことも、よく見てましたよね」 「舞さんですね」  舞が顔の上下で百面相しているのを、亜咲は悲し気な顔で見ていた。それは亜咲が舞のことを気にかけ、見ていたから気づいたことだろう。舞の友達であるはずのひよりと愛海は器用なことをしていると思って見ていた。 「付き合いが長いというのもあるんでしょうけれど、下の子たちに目配りをして自分のことは二の次になってしまうお姉ちゃんのような」 「あ……だから中館さん」  今更ながら、中館と亜咲がくっついたことが腑に落ちる。  ひよりの呟きに、水瀬が頷く。 「あの顔できちんと周りのことは見ていますからね。中館さんはいい年齢ですから、自分の世話くらいできるでしょうし。野村さん一人くらいみる余力はあると思いますよ」 「そうですよね」  愛海が聞いたら「ぜひ映画化で!」と喜びそうだ。 「野村さんが周囲への目配りなら、ひよりさんは目の前のことに向き合ってくれますからね」 「目の前のこと?」  ひよりの仕事は主に接客だ。レジを打ち、食器を片付ける。それがひよりの目の前のことだ。亜咲のようにプラスアルファのことはできていない。 「琉斗くんに田辺くん、悩める男子高校生を救ったのはひよりさんですよ」 「悩めるって……。私は何もしていませんし」  彼らが動かざるを得ない状況を作ったのは水瀬だ。ひよりはただその場にいたに過ぎない。
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