二人の鮭

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 ――しいて言えば、水瀬さんが余計なことを言ったときのフォローするくらいだよね。 「彼らはそうとは思わないと思いますよ。由梨さんなんか、特にそうだと思いますよ。僕、あれ以来、由梨さんにはよく小言を言われるようになりましたもん。ひよりさんを味方につけて、被っていた猫の皮を脱いだ感じですよね」 「……」  その一言が小言の原因ではないだろうか。  答える代わりに箸をおいて、鮭のおにぎりを口に運ぶ。ふと亜咲が「大丈夫」と自分に言い聞かせながら鮭のおにぎりを食べていたことを思い出して、おにぎりが喉に詰まりそうになる。咀嚼し、米粒を飲み込んでからお茶を飲んでようやく人心地つく。 「そういえば舞さんたちが来た日、亜咲さんに鮭のおにぎり渡していましたよね。亜咲さんは以前、鮭のおにぎりを食べるのは一人の時って言ってましたけど」  記憶力のいい水瀬が忘れるとは思えない。まして亜咲は水瀬にとって、からかいがいのある中館が絡んでいる。からかうネタになるようなことは忘れないはずだ。 「野村さんはもう一人じゃありませんからね。もし野村さんが一人の時にしか鮭のおにぎりを食べないってルールに戻ったら、甲斐性なしの中館さんが各方面から袋叩きにされると思いますよ。ひよりさんのお友達もそうでしょう?」 「そうですね。場合によっては、鉄パイプを持って殴り込みもあるかと」  ぐふっと変な声がして水瀬を見れば、豚汁を飲んでいた最中だったらしくむせている。 「大丈夫ですか?」  水瀬はせき込みながら頷き、落ち着くと目尻を拭う。 「その時はぜひ、僕にも声をかけてください。見学に行きます」 「いえ、そんなことをしたら舞さんが捕まりますから全力で止めます」  涙が出るほどむせたのかと心配したが、舞の殴り込みに喜んだようだ。涙だけではなく目が輝いている。  ――かまってちゃん時々困ったちゃんかも。
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