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思いがけない出迎えに驚いて鳴き声がした方に目を向けると、母屋と納屋の間に犬小屋と犬がいる。秋田犬だ。ワンワン、ワンワンと吠え続ける犬の様子に勝手口が開き、エプロン姿の女性が出て来る。中肉中背、母譲りの姿勢の良さと父に似たおっとりした顔は叔母の美土里だろう。
「ひよりちゃんね? いらっしゃい。タロウ、シッ!」
美土里がひよりに吠え続けるタロウのそばへしゃがみ、頭や背中を撫でてやると、タロウはひよりを気にしつつも美土里の手によって大人しくなる。ひよりがいなければ、ごろんと転がっておなかを見せそうだ。
「美土里さん、お久しぶりです。あの、おばあさんは?」
青田家の祖母はおばあちゃん、稲子はおばあさんと呼ぶのが物心ついた時からのひよりのルールだ。成長した今では、おばあさんよりも稲子さんと呼ぶほうがしっくりくる気さえする。
「うちの人と裏の畑。そろそろ上がってくるから、上がりなさい」
うちの人とは美土里の夫のことだろう。美土里と結婚する前は、東京でバンドマンをしていたらしい。東京生まれ東京育ちの彼は不惑を前にして、それまで縁のなかった農業で生計を立てることを決めたそうだ。
『バンドなんかで食べていけるわけないのよ。栗山家(うち)が土地持って農家やってるから、それ目当てなんでしょ。愛想もなくて内にこもる美土里みたいなの騙して、うまくやったわよ』
それはすべて美穂から批判混じりに聞かされたことであって、ひよりは美土里の夫のことを何も知らない。会うのすら初めてだ。
――おじいちゃんの介護をめぐって、お母さんとおばあさんたちの間で変な確執があるっぽいからな。
稲子の夫――ひよりの母方の祖父・守男――の介護が必要になったのは五年前だ。当時、美土里は東京で働いており、栗山家には守男と稲子だけが住んでいた。脳梗塞で倒れた守男は一命はとりとめたものの、半身に麻痺が残った。
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