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福子について台所へ向かう。他人の家の台所だが、福子もひよりも水瀬家の台所はおなじみだ。福子は夕飯のおすそ分けを冷蔵庫に入れに来て、ひよりはその夕飯の準備と片づけで入る。実家の台所のような感覚だ。
福子の指示を受けて直射日光を避けるように、ダイニングテーブルの下に鍋を置く。
「あとはこのまま放置するだけ。この家は台所も風通しもいいし、太ちゃんが料理しないから熱気がこもることもないからね」
あははとひよりはから笑いをする。多少の自炊はするものの、福子から見ればひよりの自炊レベルは水瀬と同等だろう。
「そうそう稲子さんから頂いたトマト、大葉と一緒に太ちゃんにもおすそ分けしたから。洗って切るくらいなら、太ちゃんでもするだろうからね」
異口同音。昨日、稲子がひよりに向けて同じ言葉を口にしていた。稲子はひよりを、福子は水瀬のことをよく把握している。
「……昨日、私も祖母から全く同じことを言われました」
ひよりが情けなくも口にすれば、先に台所を出ていた福子は吹き出す。
「稲子さん、いいわよねえ。私、好きだわぁ。しかし、ひよりちゃんのお父さんってワードだけでもプレッシャーなのに、おばあちゃんまで出てきたらねえ」
「プレッシャーって……。水瀬さん、大丈夫なんですか?」
祖母を亡くし、ふさぎ込みがちになっていた水瀬を心配していたのは福子だ。ひよりがその話を聞いてから半年もたっていない。
ひよりが見ている限り、水瀬がふさぎ込んでいる様子はない。だが、ひよりが水瀬と過ごすのは日に数時間だ。ひよりより長い時間を過ごしている福子が楽しそうにいうなら大丈夫だろうが、それでも妙なプレッシャーをかけられれば水瀬が心配になる。
「過度なストレスは体を壊すけど、適度な刺激は必要よ。ひよりちゃんのお父さんに挨拶しに行きなさいって言ってるわけじゃないもの、大丈夫よ」
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