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春は桜餅、夏は冷やし中華、秋は栗ご飯、冬は肉まんというのはひよりが思い浮かべる季節の美味しいものだ。そして季節を問わず通年おいしいのはカレーだ。夏の暑さで食欲が落ちた時でも、その匂いで食欲がわいてくる。
誰でも大きな失敗なく作れ、味も決まる。ひよりも作れると胸を張って言える一品だ。ジャガイモや人参、玉ねぎと肉という定番からドライカレー、チキンカレーにスパイスカレーといろんな種類がある。
福子が作ってきてくれたのは夏野菜のカレーのようだ。パプリカに玉ねぎ、さやいんげんにナス、トマトとベーコンが入っている。昨日採ったばかりの野菜を、こうしてすぐに料理して食べさせてくれる福子の優しさには感謝しかない。
店を閉めた後、いつものように水瀬家の居間で水瀬とともに食卓を囲む。卓袱台の上に並ぶのは福子が作ってくれたカレーとサラダだ。
「もしかしてこの野菜、ひよりさんの……」
「えぇ、祖母たちが作った野菜だと思います。サラダ、大葉も入ってますね」
サラダはキャベツとともに千切りにされた大葉が入っている。大葉とキャベツによる緑の濃淡が目にも楽しい。ひよりが爽やかな大葉を味わっていると、水瀬が千切りを箸でつまみながら息を詰めている。
「お父さんが作った大葉……」
「祖母ですよ」
「……え?」
水瀬が千切りからひよりへと目を向ける。
「元々は父が作っていたものですけど、それを祖母に分けたんです。なので今、ここにある大葉は祖母家族が作ったものですよ」
「……」
「水瀬さん?」
固まった水瀬に声をかける。水瀬は箸をサラダの器に戻すと、小さく息を吐いて体から力を抜く。
「どうしました?」
「いえ、ちょっと福子さんにはめられました」
はめられたというのは穏やかではない。福子が帰り際、水瀬をせっつくと言っていたが、まさかそれか。
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