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「大丈夫なんですか?」
「えぇ。福子さんなので、実害を与えるようなことはしませんから。ただ、ひよりさんのお父さんが大切に育てた大葉だと聞いていたので」
「そういえば、プレッシャーうんぬんって言ってたような……」
「はい。ひよりさんのお父さんが大切に育てた大葉だから、お父さんの前に出して胸を張れるものを作りなさいと」
「福子さん……」
ひよりはカレーのスプーンを持ったまま、頭を抱えそうになる。
福子は誰が大葉を作ったか知っていたうえで、事実を多少盛って水瀬に告げた。水瀬が一言余計なら、福子は一言盛ったのだ。
「父はそんなおしゃれなもの、好みませんから。下手すると空腹を満たせればそれでいいレベルの人というか」
「なるほど。おしゃれさより美味しさ……」
「水瀬さん?」
「見た目の綺麗さ、ヘルシーさより不格好というか武骨で昔ながらのもののほう」
新メニューを思案しているようで、水瀬は目を閉じて考え込む。よく見れば、昼間より血色が戻ってきたようだ。
血色が戻ったことに安心し、水瀬が思考に入ったことから、ひよりは食事を再開することにする。カレーは野菜がたくさん入っており、カレーの辛さがトマトで緩和されて食べやすい。そして煮込んで野菜の量が減るにも関わらず、たくさんの野菜が入っている。野菜不足が心配なひよりからすれば嬉しい限りだ。
「おうちカレーっておいしい」
カレーのおいしさに呟いて、再びカレーを口に運ぶ。
「そうか」
「ん?」
水瀬の声に、ひよりはスプーンをくわえたまま答える。水瀬から見れば、スプーンをくわえたままのひよりはぬけた顔をしているだろうと気づくもすでに遅し。水瀬はしっかりとひよりを見据えている。
水瀬の目に映る自分が恥ずかしくなり、口からスプーンを抜く。顔が火照っている気がするのは、カレーと暑さのせいだけではない。
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