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「福子さんが味噌だれと大葉と言っていましたけど」
「叔母が作ったおむすびです。おしゃれというより、田舎の昼ご飯的なものですけど」
覚えている範囲内で味噌だれの味をざっと説明する。そして海苔の代わりに大葉で巻けば完成だ。
「なるほど。ひよりさんのお父さんは僕が提案した大葉おむすびより、味噌だれの方が好きでしょうね」
「味が濃いからですか?」
寒い地域の料理は、味付けが濃くなりがちだ。そして塩分の取りすぎが脳卒中などの病気を引き起こす。今は青田家を含め、どこの家庭も減塩に気を遣っているだろう。
だが料理の味付けで減塩しても、自分の分の料理に醤油をかけてしまえば元も子もない。
青田の祖父がそうだ。嫁の立場上、祖父にやんわりとしか注意できない美穂は陰でひよりに愚痴をこぼしていた。
「家庭の味というイメージがありませんか? それに対し、僕が提案したのは女性ウケ、ヘルシーと売上を見据えている」
「それは……お店は利益を出さないと続けられませんよね」
「そうですね。でも、おざなりになっていることに気づきました」
「おざなり?」
水瀬からするとらしくない言葉だ。似合わない言葉でもある。
「えぇ。これがいいではなく、これでいいになっていました。おそらく福子さんには、それを見抜かれていたんだと思います」
「福子さんは私たちのことをよく見てますよね」
「そうですね。……気づかなくていいところまで見てるといいますか」
水瀬がこぼした言葉に苦笑してしまう。福子はみんなのお母さん的な存在だ。
「サラダに大葉が入ると見た目もいいですね」
「コーンとトマトも入っているから、彩りも鮮やかですよね」
コーンの甘みとトマトの酸味、大葉の爽やかさといろんな味であふれて箸が進む。さすが福子だ。ひよりではキャベツとトマト、キュウリだけで済ませてしまう。
「大葉はすごいですね」
水瀬は大葉を箸にとってしげしげと見ている。
「大葉が?」
ひよりもサラダの器に目を落とす。器の中では山となったキャベツの黄緑の中に、緑色の大葉が控えめに混ぜられている。
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