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「えぇ。主役ではないのに、きちんと存在感を放つんですから」
「存在感……薬味とか」
ひよりが薬味とドレッシング思い浮かべたのを察したのか、水瀬が苦笑を浮かべる。
「大葉は薬味のイメージが強いですよね。特に今の時期だと素麺で」
「はい。ズボラな私からすれば、キッチンバサミで切っちゃえばいいかなーとか」
「えぇ、ネギもハサミでいけますよ。……そうではなくて」
こほんと水瀬が一度、咳払いをする。
キッチンバサミで料理をするのは水瀬も同じだったようで、一方的に仲間意識を抱いてしまう。
「このサラダでは味にバリエーションを持たせてくれますけど、ひよりさんの叔母さんが作ってくれたおむすびでは主役級の働きですよね。海苔でもいいんでしょうけど、大葉にすることで季節感が出る」
「確かに。季節感って、大事ですよね」
「今は旬の野菜じゃなくてもハウス栽培のおかげで一年中、いろんな野菜が売られていますからね」
「そうですよね。旬って言われないとわからないかもしれないですね」
稲子と雅史が未来の農業について語っていたことを思い出す。野菜は温度管理がきちんとされた、きれいな部屋の中で作られるのが当たり前になるのではないかと話していた。もしそうなったら、本当に旬はわからなくなるだろう。
現に、今を生きるひよりが旬については怪しいところがある。
――旬とか、きちんと知りたいな。
えんでバイトしているのもいい機会だ。試験が終わったら、勉強してみるのもいいかもしれない。
「普段なら添え物になってしまう大葉を、主役にしてしまうお父さん……」
「いや、父はあまり関係ありませんから」
「僕はこれから先、大葉を見るたびにひよりさんのお父さんたちを思い出すんですよ」
「……水瀬さん、父に会ったことありましたっけ?」
「ありませんけど、まぁ……」
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