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水瀬は言葉尻を濁して、大葉とキャベツを口に運ぶ。ひよりもサラダを口に運ぶと、大葉にあたる。
父が稲子に大葉を分けたのは二十年も前の話だ。それからずっと稲子が大切に育ててきた大葉だ。当時の父は稲子が育てた大葉が時を経て、ひよりの口に入ることになるとは思わなかっただろう。
そう考えると福子が言っていたように、父と稲子が丹精込めて作ってくれたおかげだ。二人の愛情の深さが、今になってひしひしと伝わってくる。
家族は何においても耕太を優先していると思っていたし、それは事実だ。だが傍目にわかりやすい耕太への愛情とは違い、ひよりにも深い愛情をかけてくれていた。
福子は大葉を大切に扱うよう水瀬に言ったようだが、本来それを言われるべきはひよりだ。奨学金とアルバイトですべてをまかなうと決めたひよりを心配し、稲子はすぐに食べれるものを持たせてくれた。
稲子の性格を考えれば、きちんと自炊しなと一喝されてもおかしくはない。それをしなかったのは、陰ながらひよりを応援してくれているからだろう。
「大葉でおむすびを包む発想が僕にはありませんでした」
「私は大葉をおむすびに使おうと考えたことすらありませんでした」
「一人より二人、二人より三人ですね」
水瀬の言葉に、ひよりもえんの一員として認められている気がして嬉しくなる。
「包むからの連想ゲームじゃありませんけど、中館さん最近来ました?」
「来ませんけど、どうしたら包むから中館さんが連想されるんですか?」
「中館さんは包容力があるって――」
福子さんが、と続ける前に水瀬が口を開く。
「あれはただ単に、自分の仕事が増えなければ我関せずってそれだけですよ。自分が面倒ごとに巻き込まれそうになったら口を挟む。中館さんには包みこむという優しそうな言葉より、羽交い絞めって言葉の方が似合いますよ」
「確かに」
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