大葉は包みこむ

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 羽交い絞めを決めている中館を想像し、思わず吹き出してしまう。中館本人が聞いたら顔をしかめられるのは間違いない。 「さすがに女性を羽交い絞めにすることはないと思いますけど、こうも来ないとフラれたのかと心配になりますよね」 「……福子さんも心配していました」 「じゃあ、フラれたんですね」 「……」  即答する水瀬に、さすがに中館が気の毒になって同意できない。水瀬も福子も、中館がフラれるのが前提だ。 「中館さんも大葉のおむすび食べて勉強すればいいんですよね」 「何を?」  中館のこととなると言いたい放題になる水瀬に、念のため聞いてみる。ひよりが納得できる答えが返ってこないのは承知の上だ。 「包容力。中館さんに足りないものですよね」 「……」  勝ち誇った顔をする水瀬に、ひよりは曖昧な表情をしてカレーを口に運びながらふと思う。  ――もしかして、包容力があるのは私かもしれない。  ひよりがえんで過ごす初めての夏は、こうして更けていった。
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