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かつおと昆布は余りもの?
七月中に夏休みに入った子どもたちに次いで、八月になると大学生も試験が終わって夏休みを迎えた。炎天下にもかかわらず遊びに繰り出す子どもたちがいる一方、受験勉強に専念する子たちもいれば、ひよりのようにアルバイトに専念する者もいる。
大学生活一年目だった去年は、親友の部屋に転がり込んでいた肩身の狭さもあり、連日バイトをしていた。コンビニにイベントの警備スタッフ、運送会社での荷物の仕分けなど夏休み中は勤労学生と化していた。友達のように実家に帰るとか、旅行に行くなんてこともなくひたすら働いた記憶しかない。
そう言うと周りからは引かれたが多少の経済的余裕ができたので、ひよりとしては安心だった。先立つものがなければ、病気になることもできないと思ってのことだ。だが幸か不幸か去年は風邪一つせず、病院のお世話になることもなかった。
今年の夏はどうしようか。
とりあえずえんのバイトがある。
実家に帰る予定はない。帰ったところで、耕太が捕まった経緯がある。自他共に厳しい母方の祖母・稲子と違い、青田家は耕太に甘い。父はどう思っているかわからないが、母・美穂と耕太はひよりを良く思っていないはずだ。
お兄ちゃん、どうしてこんなことを……なんて、泣き真似でもすればよかったのだろうか。
――無理。我が兄ながら、呆れちゃったもんな。
支離滅裂な言い訳をしていた耕太を思い出す。嫌な記憶を打ち払うように頭を振り、ペダルに乗せた足に力を入れる。風がなくとも、自転車を漕げば空気を感じることができる。
雪が降ったり、路面が凍結してアイスバーンになる冬は自転車を使うのを自粛する予定だが、日頃の交通手段としては頼りになる相棒だ。炎天下で十五分歩くのと、自転車で風を感じながら進むのでは大きく違う。
日頃足早に歩く人たちも、この炎天下では歩調がゆっくりになっている。ひよりの数メートル先を行く女性もそうだ。
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