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先月、美穂の実家である栗山家から大葉を大量にもらった。その大葉で夏の新メニューを水瀬と福子とともに考えたものだ。考えたと言っても前者は水瀬のアイディアで、後者はひよりの叔母・美土里が作っていたものを紹介したに過ぎない。
念のため、美土里に味噌だれのレシピを聞いたものの、毎日のように料理を作る美土里はレシピ本のように大さじ1などという単位で把握していない。どこのでもそうだろうが、ご飯を作るのに慣れている人たちは目分量で合わせている。それで毎回同じ味を出せるのは、ひよりにとっては魔法でしかない。
そのため美土里の目分量レシピを元に、販売用として手を加えたのがベテラン主婦の福子だ。福子も目分量で味を調えて水瀬とひよりの胃袋をつかみ、あっという間に商品化にこぎつけた。
それでもひよりにとっては自分も商品化にかかわった初めてのおむすびであり、思い入れのある一品でもある。そして新商品開発の意見を求められたことで、自分もえんの一員であると再認識させられた嬉しさと責任を感じて身が引き締まるような気持ちになった。慣れたからといって油断せず、身を引き締めて頑張ろうと思った瞬間だ。
「おいしそう! 口の中が爽やかになりそうだね。両方食べよ」
「ありがとうございます」
店に入る由梨とえんの前で別れ、ひよりは自転車を止めるべく店の横を通って水瀬家の通路へと向かう。
「……?」
視線を感じたような気がして振り返るも、誰も足を止めることなく歩いている。
「気のせいかな」
由梨が言ったように、暑さで頭がぼうっとしているのかもしれない。
ひよりが気のせいで片付けた出来事が後日、近隣を巻き込んだ事件に発展することを誰も知る由がなかった。
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