かつおと昆布は余りもの?

11/48
前へ
/172ページ
次へ
「いらっしゃいませ」  お客さんだと思い声を掛ければ、勤務を終えた福子だ。眉をひそめていることから何事かと思うものの、ちょうどイートインしていたお客さんが帰るところだ。水瀬がレジで対応し、ひよりは片付けに向かう最中で福子に話しかけることはできない。 「ありがとうございました」  お客さんが店から出ると、福子はつかつかとレジにいる水瀬に向かっていく気配を感じる。 「太ちゃん、今、電柱の陰からえんをうかがってる男がいたのよ」 「男」 「男。ひよりちゃんの知り合い?」  福子に話しかけられ、ひよりは片づけをする手を止めて福子を振り返る。 「え……どんな人ですか?」  まさかと思う。ひよりが思い当たるのは耕太一人だ。捕まった腹いせで、耕太がやって来たのかと身構える。 「筋肉質で短髪の黒髪。うちに何か用ですかって声掛けたら、走って逃げたの」 「身長はどれくらいでした?」 「うーん、雪ちゃんほど大きくなかったわね。太ちゃんと同じくらいかちょっと大きいくらい」 「心当たりはないですね」  耕太ではなさそうなことに、ほっと胸をなでおろす。耕太は水瀬より小さい。一六五センチのひよりと同じくらいだ。 「じゃあ何? 一方的なひよりちゃんのストーカー?」 「え……? ストーカーされる覚えがないんですけど」 「一方的に恋心を募らせたのよ」 「いやいや、そんな……。わたしがここで働いているのを知っている人、少ないですよ。それにペラペラ喋る人達じゃないし」 「どこかでひよりちゃんを見かけて、一目ぼれしたのよ。それで後をつけた」  福子の言葉に、店内がしんと静かになる。  ひよりにはストーカーされる覚えはないし、一目ぼれされる容姿でもない。以前えんに来店した売り出し中の女優・希かなのような美人でもなく、ごく普通の平凡な人間だ。しいて特徴をあげるなら、家出をしてホームレスになりかけた過去がある。そういう人間をストーカーするだろうか。 「僕です」
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

39人が本棚に入れています
本棚に追加