かつおと昆布は余りもの?

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 まさかという不安を抱えて福子とひよりが顔を見合わせていたところに、水瀬が口を挟む。ぎょっとして二人そろって水瀬を見れば、水瀬はスマホで電話をしている最中だ。 「ちょっと来てください……仕事です。うちの店をうかがっている変な男がいたんです……変な男っていうから、中館さんかと思ったんですけど、どうやら違うらしくて……え? 中館さん、変な男ですよね?」  電話の相手が誰かわかり、ひよりはため息をついてしまう。  ――頼み事する相手を変な男呼ばわりって。  電話の向こうで中館が「あ?」とこめかみを引きつらせている姿が、易々想像できてしまう。 「福子さんが声掛けたら逃げたんですけど、そうなると狙いはひよりさんか僕ですよね」  水瀬の発言にハッとしたのは、ひよりと福子だ。ひよりは貧乏学生だが、水瀬は経営者だ。店舗兼住宅を持っているし、比較的細身だ。筋肉質の男からすれば、細身の男なら制圧できるかもしれない。  福子を見れば、その顔には「狙いは太ちゃん!?」と書いてあるように見える。 『……おめーなわけねーよ』  水瀬はスピーカー通話に切り替えたようで、スマホから中館のげんなりした声が聞こえてくる。夏バテなのか仕事のせいか、かなり疲れた声だ。 「なんですか、その決めつけ。そんなこと言ってると、フラれますよ」 『……』  電話の向こうで中館がため息をつくのが聞こえる。水瀬はどんな時でも中館をからかわずにはいられないようだ。 「とりあえず、ひよりさんは福子さんちに匿ってもらいますね。大家の川添さんは足が悪いし、本物の資産家ですから」 『……あぁ。万が一、何かあったら通報するよう山賀のおばさんに伝えてくれ』 「中館さんに連絡すればいいですね?」 『通報は一一〇番! 俺の携帯は通報用じゃねえ!』  怒声が聞こえ、いつもの中館だと安心してしまう。 「えー、中館さんすぐ近くにいるじゃないですか」  水瀬が甘えた声を出す。なんとなく気になってスマホから水瀬に目を向けると、その顔はおもちゃを手にした子供のように嬉々としている。  ――水瀬さん、中館さんを思いっきりからかう気だ。  中館は耕太の件があって以降、今日にいたるまで姿を見せていない。それは水瀬から中館をからかう機会を奪うのと同じ意味だ。 『仕事中はな。今夜は俺だって帰るわ』 「どこに?」 『家。部屋』 「うちに来ればいいじゃないですか。近いですよ。クーラー入れておきますし」 『い・や・だ。仕事中だから切る――』 「いるんですか? 部屋を涼しくして、ご飯作って、お風呂入れる用意して、中館さんの帰りを待っている人が」  ――亜咲さん?  中館の彼女らしい人物を思い浮かべ、ひよりもスマホに耳を傾ける。中館と亜咲はうまくいっているのかと喜んだのは束の間だ。  水瀬にぐっと近づいた福子の目が光り、水瀬はスマホ片手に勝ち誇ったような笑みを浮かべている。  ひよりが心底、中館に同情した瞬間だ。
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