かつおと昆布は余りもの?

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 「それ、うちと同じです。うちは声をかけたのが福子さんですけど」 「同じ人?」 「ですかね」  由梨が眉を顰め、思案顔をする。 「ここなら病院帰りにご飯食べて帰るとか、テイクアウトするのにいい場所よね」 「そうですね。本当に具合悪かったら別ですけど、経過観察とか食事制限がない人なら」 「食事制限あっても、食べる人は食べるんだけどね」  由梨が苦笑するも、すぐに真顔になる。 「責任者の方、いらっしゃる? 後でうちの先生から改めて連絡入れてもらうけど」 「わかりました。少々お待ちいただけますか」  由梨が口調を変えたことで、ひよりも姿勢を正す。 今回の不審者事件はただ事ではない。病院と飲食店と業種は違うが、代表者同士が筋を通す話だ。ひよりでは確実に手に負えない。  片づけをしていた福子が由梨のただならぬ様子を察し、小さく頷いて食器を下げながら水瀬を呼びに行く。ひよりがいて表の人員が足りているため、水瀬は裏でおむすびを握っている。  夏休み中の子どもたちや、子どものお昼を用意しなければならない母親たちのおかげで売れ行きは上々だ。パンに比べてお米は腹持ちがいいことから、食べ盛りの子どもを持つ親たちに重宝されているようだ。  水瀬を待つ間、由梨は何気なく外の様子をうかがっている。ひよりも目で追うも、外に怪しい人物はいない。  お待たせしましたとやって来た水瀬は、手にしたお盆にグラスを二つ載せている。おそらく麦茶だ。 「こちらへどうぞ」  水瀬が由梨をエスコートした先は個室になる畳席だ。なぜおむすび専門店に個室があるかといえば、水瀬の祖母・ツヤ子が経営していた定食屋時代の名残である。あまり使われることはないが、こういう密談の時は便利だ。  水瀬がふすまをしめて個室になれば、中で何を話しているかはわからない。普段は世間話に興味津々の福子も、お客さんがいることもあって知らぬ顔をしている。  えんはいつもと変わらないし、お客さんたちにも変わった様子はない。常にポーカーフェイスの水瀬は別として、福子とひよりも普段と何も変わらない顔をしている。店内にあるのは日常の光景だ。  だが不審者という自分には関係ないと思っていた非日常は、日常と紙一重でそこにあった。
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