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「DV?」
開店前の店内に、ひよりの素頓狂な声が響く。
不審者にDVと穏やかでないことが続く。それ以前には耕太の騒動もあった。それでもひよりは不穏な出来事には慣れない。
日々、不審者や容疑者といった人たちを相手にしている中館は別かもしれないが、ひよりはこれからも慣れることはないと思う。それに慣れるような世界であってはいけない気がする。
「正確にはDV、ドメスティックバイオレンス疑惑です」
「太ちゃん、ひよりちゃんはDVの意味が分からなかったわけじゃないの。誰がって意味で聞いたの」
福子が口を挟むも、その表情は険しい。面倒見がよく、ご近所の情報に強い福子だ。福子の中で、被害者を守らなければならないというスイッチが入ったように見える。
「知りませんよ。カメラを確認に来たのは明絵先生とお兄ちゃんでしたから」
「明絵先生?」
「田辺兄弟のお母さんです。旦那さんもおじいちゃんも先生ですから、田辺先生はみんな名前呼びなんですよ」
ひよりの問いに答えてから、水瀬は福子を向く。
「病院は個人情報もありますし、先生たちはじめスタッフが患者の情報をもらすこともないと思いますよ」
「そうよねえ。信頼と実績、一年三六五日二十四時間、地域のために尽くす田辺病院だもんね」
「え……田辺医院って毎日二十四時間開いてるんですか?」
まるでコンビニだ。そのコンビニもオフィス街にあれば、オフィスが休みの正月三が日は休むところもある。コンビニも働き方改革をしているのに、田辺医院は一年中休みなし。病気やけがに休日はないが、田辺医院に働き方改革は必要ないのだろうか。
「そうよ。田辺医院って名前が個人病院みたいだけど、田辺先生たち以外にもお医者さん雇ってるし。救急に行くほどのことじゃなければ、まず田辺医院に行く。そこで手に負えなかったら救急車を呼んでくれるってここらじゃ有名な話よ」
「そうやって大学病院や救急と連携して地域の医療を支えてるんですよ、田辺医院は」
「すごいんですね」
世の中はやはり知らないことがたくさんある。
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