大葉は包みこむ

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大葉は包みこむ

 身内が警察のお世話になったことのある人は、世の中にどれほどいるのだろうか。泥酔して警察署で一夜を明かしたとか、やんちゃが過ぎて保護者に迎えに来てもらったとかではない。逮捕だ。  兄が逮捕された。  青田ひよりは電車の車窓を流れていく、のんびりした風景を見ながら思う。  仙台市郊外はビルや商業施設が乱立する中心部と違い、田畑があるせいか時間の流れがゆっくりしているように見える。波乱のただなかにいる青田家とは大違いだ。  兄・耕太が振り込め詐欺に加担していることが発覚したのは、耕太が偶然にもひよりがアルバイトをする店を訪れたからだ。だが当の耕太は気づかず、店主の機転で警察に連行されることとなった。  それからすでに一ヶ月以上経った七月下旬、東北地方が梅雨明けしたニュースを聞いたひよりは電車に乗った。行き先は母方の実家・栗山家だ。  栗山家は仙台市郊外で代々農家を営み、現在は祖母と叔母家族で暮らしている。祖母・稲子は舞や三味線の師匠を彷彿させる姿勢の良さと厳しさを備えており、ひよりは昔から稲子のことが苦手だった。  今回はその稲子からの呼び出しだ。呼び出しというより出頭命令に近い。娘であるひよりの母・美穂から、ひよりの番号を聞き出したらしく直に連絡を寄越した。 『栗山の稲子だよ。話があるから、早急に都合をつけて来な』  留守電に残されたメッセージに、どこの極妻かと震えあがりかけたひよりだ。  耕太の件は間違いなく稲子の耳にも入っている。そうでなければ、わざわざひよりに電話をかけてくることもないだろう。だが耕太に説教の電話をするならともかく(耕太が電話に出られる状況なのかはわからないが)、なぜひよりなのかと首を傾げた。
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