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(彼女と出会わなければ良かったのだろうか?)
暗く沈んだ僕はそう自分に問うた。
(いや、そうは思わない)
そう即座に否定できたのは、なぜなのか振り返ってみる。
僕がかつて長く胸の中で抱えていた孤独は、彼女との出会いでかき消されたままであって、けっして蘇りはしなかったからなんだと思う。
確かに、彼女と別れても僕は一から全てを失ったわけではなかった。
それが少し僕を強くしたかもしれない。
彼女の去ったあと、さらに寂しく、脆くなった自分はいるけれど、そういう考えに結びついてからは、僕は少しずつ平静を取り戻していった。
これが結果ではなく、実は通過点だったと信じることができれば、それが強がりでも何でもなくなる。
彼女との別れを乗り越えた今なら、僕は純粋に信じていると言えるだろう。
仮にどんなに悔いたとしても、もう二度と帰ってこない1日を日々生きているのなら、たとえば彼女といた日、そして僕が生きている、ただそれだけの何でもない今日も、それぞれが僕にとっては特別な日。
うれしいときも、悲しいときも、勇気に満ち満ちているときも、疲れ果て沈み込んでいるときも、そんな日々を一つ一つ重ね、丁寧に紡ぐように誠実に生きるなら、このたった1個の人生が、夜空に浮かぶ星のように、僕だけが放つことのできる光にさえなるだろう、いつかきっと。
いつからか、僕はそう信じている。
(了)
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