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付き合い始めのころにあった楽しさと寂しさは、既に旧い思い出となって消し飛んでいくようだった。
(なんで僕らは付き合ったんだっけ?)
(彼女の何が好きだったんだっけ?)
そう独りごちる僕にはもう、別れた理由しか分からなくなっていた。
涙は出ない。
疑問符ばかりが、僕の頭の中で散らばっている。
途端に何もかもが嫌になって、僕は家に帰ると、買い込んだ酒をまさに浴びるように飲んだ。
ウィスキーやジンをストレートで呷ると、喉、胸が痺れるように熱く焼けた。
思わず目の端から零したそれに、僕はきっと泣きたかったのだと、ようやく気づいた。
(僕はいったい、何を間違えたのだろう?)
(僕は、どこで間違えたというのだろうか?)
意識が、グルグルと渦を巻く。
酒に浸した脳細胞たちは、明快な答えを持ち合わせてはいない。
心理学者は、恋は単なる脳による錯覚だというが、それは恋に限らないだろう。世の中、真に高尚なもの、即ち真実と呼べるものを見つける方が難しい。
(なあ、いったい僕はどうしたかったのかな?)
すがるように見上げたが、屋外の北風の吹く音しかしない。
ふとボブ・ディランの歌が、僕の口をついて出た。
答えは風の中。たしか、そんな歌だった。
僕はさらに欲しくなり、グラスに残るウィスキーに口づけた。そうやって、自然と眠りにつくまで、自分で自分の胸を温めながら、夜をやり過ごした。
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