椎名くんは笑わない

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「ぶはっ」  椎名くんの超マジな顔を見て、私は思わず吹き出してしまった。  すると椎名くんは 「ぶほっ」  と私につられ笑いをした。 「あはははは!」 「あああああっ! コラ藤川! 何すんだよお前、つられたじゃねえかっ! 俺の初笑いを返せ!!」  真っ赤になって怒る椎名くん。   「くそー! また沢田にやられたー!」 「いや、沢田くんとのエピソードっていうか、椎名くんの顔芸だよ今のは。椎名くんの顔が面白すぎたの」 「え、俺?」  椎名くんは自分を指差した。 「私にとっては、椎名くんがツボだよー。あー面白かったあ」 「そっか……じゃあ俺は俺の顔を見た藤川の声で笑ったから、藤川に初めてを奪われたってことで」 「その言い方やめろや」 「あははは」  椎名くんは自然な笑顔になった。  なんだかとても可愛くて、キュンとする笑顔だった。  私たちの笑い声が青空に吸い込まれていく。 「なーんだ、笑うのって簡単じゃん? 何を焦っていたんだろうな、俺」 「ほんとほんと」 「笑って年を迎えるのっていいな。今年はいいことがありそうな気がする」 「もう五日も過ぎてるけどねー」 「うっせ」  私たちは笑いながら参拝の列に並んだ。  五日目ともなれば詣の列は短い。すぐに私たちの祈りの番になる。  鐘を鳴らし、お賽銭を投げ、二礼してから二拍手をした。  目を閉じてから、何をお祈りしようか考える。  うーん、そうだなあ。  ちらりと片目を開けて隣を見ると、超マジな顔でお祈りしている椎名くん。  笑ってしまうからやめれ、その顔。  緩んだ頬で、もう一度目を閉じる。  そうだね、今日は椎名くんが初めて笑った特別な日。  来年もこんなふうにこの日を過ごせたらいいねと、神様の前で手を合わせながら私は思った。  
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