一章  冬の朝

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 ミツアシは雪代にも言い返そうと口を開きかけたが、その前に碧が鋭い口調でミツアシの名を呼んだ。 「ミツアシ、更に恥を重ねるつもりか。お前は一度外へ出て頭を冷やしてこい」  碧にそう命令され、ミツアシは誰とも目を合わせることなく出ていった。  ミツアシが出ていくと、碧はもう一度深く謝った。 「重ね重ね申し訳ない。どうにもミツアシは人間を下に見る癖があってな。今回の件は親父からも釘を刺されているんだが、なかなか反省しなくて…」  そう言うと碧は苦いため息を零した。 「けれど、ミツアシさんは碧様の父上の補佐をしているのですよね?内心どうあれ、あのように感情を表にだすのは如何かと」  ミツアシの態度にあまりにも腹が立っていたのか、雪代は責めるように碧に言った。 「分かっています。いつもならあれ程感情的になることはないんですが、なぜか今回ばかりはあのようにいつまでもイライラしていて」  碧は雪代を見続けることができず、膝の上に視線を落とした。 「碧様が苦慮しているのはわかりますが、今のミツアシさんに対して何らかの対処をした方がいいでしょう。  今回の件で、太郎坊様も樹さんの事を大変心配しておりました。太郎坊様だけでなく…」 「そうだったんですか」   驚いて樹はつい雪代の言葉を遮り、声を上げた。
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