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自分より三つ年上の兄は好奇心が強く、興味を持った所へどんどん行ってしまう。今回もそうだった。予てから竹林へ入ってみようと機会を窺っていた兄だったが、今日がいよいよその時だった。
遠方から大事なお客が来るらしく、大人達は朝からそちらにかかりきりだった。兄はそんな大人達の目を盗み、こうして自分を連れてこの竹林に足を踏み入れたのだ。
「なぁ」
ふと足を止め、兄がこちらに声をかけてきた。
「何か歌声が聞こえてこないか」
兄に言われ、耳を澄ませてみる。すると確かに、微かだが前方から鼻歌のようなものが聞こえてきた。
こんな陽もほとんど差さないような竹林の中、一体誰がいるのだろう。鼓動が速くなっていくのを感じた。
「お兄ちゃん、帰ろうよ」
兄の手を引くが、兄はそこから動こうとはしない。
「ここまで来たんだ、いくぞ」
そう言うと兄は再び歩き出した。そうなれば自分も付いて行くしかない。しばらく歩くと、竹林の陰から土蔵が現れた。兄と共に竹藪に身を隠し、土蔵の様子を窺う。土蔵には光を取り入れる小窓がついていたが、はめ殺しになっていた。
「お兄ちゃん…」
兄の顔を窺う。兄は緊張しているのか強張った顔をしていたが、それでも自分の手を引いて土蔵に近づこうとした。
「あそこに何かを閉じ込めているんだ」
兄はぽつりと言った。
「何かって?」
「分からない。だから確かめる」
兄はごくりと唾を飲み込み、土蔵のすぐ傍まで寄った。それから中の様子を小窓から覗き込んで窺う。
「中が暗くて分からないな」
兄は見てみろとこちらに目で促してくる。怖いが、渋々覗き込んだ。兄の言う通り中は暗く、どうなっているのかよく分からない。窓から目を離し、兄の方へ振り向いた。兄の顔を見て固まる。兄は血の気が引いた顔で窓を凝視していた。額に脂汗が滲んでいる。
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