一章  冬の朝

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一章  冬の朝

「…なるほど、それが君の願いだね。わかった、すぐに手配しよう」  夢月の言葉に青年は檻越しに深く頭を下げた。 「看守長殿、深く感謝致します」                  * 「えっと…ここでいいんだよな…?」  樹は道の脇に車を停め、車外に出た。少し先に見える建物が記憶にあるものとあまりにも違うため、道を間違えたのではないかと不安になる。しかし一か月通い続けた職場までの道を、今更間違うはずがない。 「水沢さん、場所は変えていないって言っていたから、ここでいいと思うんだけど…」  樹は再び車に乗り込み、目的の建物まで走らせた。  目的地の駐車場に停め、改めて己の職場を眺める。  以前は二階建ての古民家風の建物だった。しかし三か月前に半壊してしまったため、建て直すことになった。樹は建て直すにしても、以前と同じようなものになると思っていた。 が、今目の前にあるのは、三階建ての怪し気な洋館だ。新築したと聞いていたが、何十年、あるいは何百年も前から建っているような趣がある。  煉瓦造りの壁にはツタがはっており、屋根からのびる煙突は(すす)けていた。  樹は恐る恐る玄関に近づいた。洋館の正面には重厚な木製の扉があり、そこには金獅子のドアノッカーが取り付けられている。樹は獅子が咥える輪に手をかけ、それをコンコンと打ち鳴らした。樹が待っていると、扉は内側からゆっくりと開いた。
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