一章  冬の朝

2/64
前へ
/315ページ
次へ
「お久しぶりだね、樹君」  扉の向こうから聞き覚えのある声がした。 「お久しぶりです、想さん」  声の主に樹は挨拶を返した。 「それにしても、すごいの建てましたね」  屋敷に入りながら、樹は事務所の社員である、穂群想(ほむらそう)に話しかけた。 「そうでしょ。涼と一緒に考えたんだよ」 「え、想さんと涼さんが設計したんですか」  驚いて樹は聞き返した。  俵涼(たわらりょう)も想と同じく事務所の社員で、経理や事務を行っている。 「設計ってほどじゃないけど、所長が自由にやっていいって言うから、二人で建築士さん達と話し合って決めていったの」 「そうだったんですね…」  周りをぐるりと見回しながら、樹は返した。  玄関を入ってすぐの所はロビーとなっており、中央にテーブルとソファが置かれている。壁沿いには幾つか大き目の観葉植物が飾られていた。  ロビーの両側には廊下が伸びており、それぞれ奥の方に二階へ上がる階段が設置されている。 「樹君、屋敷の中をあれこれ案内したいけど、まずは所長に挨拶しないとね」 「…ですね」  想は樹を伴って歩き出した。向かって右の廊下を進み、奥まで行くと上へ続く階段を上り始めた。 「なんかあまりにも会うの久しぶりで、緊張してきました」  樹がぼそっと言うと、想は吹き出した。 「今更所長に緊張?  今まで電話やsnsで連絡は取っていたんでしょう?」 「そうですけど、実際に会うのは三か月振りくらいですし…」  夜彌との戦いの後、樹は正式に水沢の事務所で働く事になった。しかし事務所の建物は夜彌に壊され、樹自体も大きな怪我を負っていたこともあり、入社は年明けからとなった。
/315ページ

最初のコメントを投稿しよう!

184人が本棚に入れています
本棚に追加