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樹は動けるようになると療養していた太郎坊の家を出て、一先ず実家に戻った。そして両親に就職が決まった事を告げると、そのまま職場に近い部屋を探し始めた。
事務所がある地域はそれほどアパートの数はなかったが、それでも手頃な家賃の1LDKの部屋を見つけ出し、樹は年が明ける前にそこへ引っ越したのだった。
「そんなに緊張することないよ。所長は代り映えなく、いつもの所長だし。
あ、そういえば樹君、一人暮らし始めたんだって?」
歩きながら想が聞いてくる。
「はい。流石に片道一時間もかけて会社通うのは大変だと思って、近場に部屋を借りたんですよ。
それに一人暮らしなら仕事中に何かあっても、親に言い訳しなくてすみますし」
「できれば仕事中に何か無い方がいいんだけどね」
想が苦笑した時、前方から声がかかった。
「お久しぶりです、樹さん。お元気でしたか」
前にいたのは俵涼だった。手にはコーヒーの入ったカップと、菓子が入った小鉢を乗せたお盆があった。
「お久しぶりです、涼さん。
水沢さんと所へ持っていくんですか」
樹の問いに涼は「ええ」と微笑んだ。
「調度良かった。それじゃみんなで所長のとこに顔を出そっか」
そう言うと想は少し先にある扉の前まで行き、おもむろにノックをした。すると中から水沢の返事が聞こえてくる。
「お邪魔します、所長。樹君を連れてきましたよ」
想は後ろにいた樹を振り返り、ぐいっとその腕を引っ張った。
「あ、えっと、お久しぶりです、水沢さん」
久しぶりに会うとどうにも照れくさく、樹は俯きがちに水沢に挨拶をした。
「ああ、直に会うのはそうだよな。
樹元気だったか。体に異変は出てないか」
心配そうに見つめる水沢に、樹は笑みを見せて「大丈夫です」と答えた。
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