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「雪代さんの修行も今は問題なく出来てますし、ここでの仕事も今まで通り出来ます」
「それなら良かったが…」
「所長、そんな辛気臭い顔してないで、せっかくこうしてまた四人集まれたんですから、今日はお祝いにしましょうよ」
後ろにいた想が、がしっと樹の両肩を掴み、明るい声で提案した。
「そういえば、まだ事務所の新築祝いもしていませんでしたね」
想の隣で涼も呟く。
「今のところ、早く終わらせなきゃいけない仕事もないですよね?」
想に問われ、水沢は曖昧に頷く。
「それなら今日はパーっとお祝いにしましょ!
涼、ケーキ買いに行こう」
「いいですね」
いつもは真面目な涼も今日は珍しく想の提案にのり、持ってきたコーヒーを水沢の前の机に置くと、さっさと二人で部屋を出ていってしまった。
呆然と見送る樹だったが、顔を水沢に戻し、「良かったんですか」と尋ねる。
「あいつらにも散々迷惑かけたからな。今日ぐらい羽目外してもいいだろ。
それよりお前はいつまでそこにぼけっと立っているんだ」
久しぶりにいつもの口の悪さが聞けて、樹は思わず笑み浮かべた。
「なに笑ってんだ」
「いえ、いつも通りの日常に帰ってきたなと思いまして」
笑いながら樹は部屋の中央にあるソファに腰かけた。
「そういえばここって、水沢さんの部屋なんですか」
樹はキョロキョロと周りを見回しながら尋ねた。
入口の向かい側には大きな窓があり、そこから町の様子が一望できる。調度同じくらいの目線には、雪を被り白銀に輝く連峰の雄大な姿があった。
水沢はその窓を背にして、高級そうな黒革のオフィスチェアに腰かけている。その前にはどっしりとした木製のワークデスクがあり、その上にノートパソコンを広げていた。
部屋の両脇には本棚があり、以前の事務所に置いてあった辞書や資料などが並べられてある。部屋の中央には来客用なのか、背の低いガラステーブルと、テーブルを挟んで二つのソファが置かれていた。
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