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「ああ。あいつらが建て替えるなら所長室も必要だろうと言って、この部屋も設計に組み込んでいた」
「そうだったんですね。そう言えば想さんがこの新しい事務所の間取りなんかは、涼さんと二人で考えたと言っていましたが、よく許可しましたね」
「許可したっつーか、なんつーか、俺は他の事に追われてて、こっちまで手が回らなかったんだよ。だからあの二人に任せたんだが、まさかこんな事になるとはな…」
水沢は盛大にため息をついた。
「水沢さんはこの事務所が立つ前に、図案とか見なかったんですか?」
「見なかった。その時期は睡眠もままならない程忙しくて、見てらんなかったんだよ。それにあん時はどんな形でもいいから、早く事務所を建て直してくれって気持ちが強くてな」
「なるほど。それでこうなったんですね。
…その、こういう建物でも悪くはないとは思いますが、僕としては前の事務所の方が良かったかなとは思います」
遠慮がちに樹が感想を言うと、水沢も「同感だ」と苦笑した。
「そういえば樹、碧には会ったか」
ふと、表情を戻した水沢が樹に聞いてきた。
「前に俺のところに連絡を寄越してな。そん時の声があまりにも悲壮というか、慰めたくなるくらい打ちひしがれた声をしててな。もう何度も謝られるし。
まぁ、部下がした事を考えるとそうもなるかとは思うが」
「ええ、雪代さんの所で修行してた時に来てくれました」
樹は複雑な表情で答え、その時の事を思い出した。
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