一章  冬の朝

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               * 「久しぶり、碧。ミツアシさんも」  リビングのソファに座る二人に、樹の方から先に声をかけた。碧は顔面蒼白で体を強張らせていたが、元気そうな樹の姿を見て、ほっとしたのか僅かに緊張を緩めた。 「樹…」  碧は名前を口にしたままその後の言葉が続かない。いつもの溌剌(はつらつ)とした姿からは想像できぬほど、碧は弱々しく樹の目には映った。 「樹、本当に申し訳なかった」  碧は立ち上がり、樹に深く頭を下げた。 「ミツアシ、お前も謝るんだ」  碧は隣に座るミツアシを立たせ、樹に謝らせた。ミツアシは丁寧に謝罪したが、その顔を見ると腑に落ちないという思いがありありと浮かんでいる。 「謝って済む事じゃないのは分かってる。お前に何を言われても甘んじて受ける。なんだったら殴ってくれても構わない」  奥歯を噛み締め辛そうにそう言う碧に、樹とミツアシが同時に名前を呼んだ。 「碧、そんなことするわけないだろ」 「若、なぜ人間相手にあなたがそんなことを言う必要があるんです」  碧はミツアシを睨みつけた。 「ミツアシ、お前はまだ自分がしたことを分かっていないのか」  今まで聞いたことがないような冷たい声で、碧は言った。ミツアシは一瞬怯んだようだったが、すぐに言い返す。 「しかし、結果夜彌を倒すことができたから良かったですが、もしかしたらこの人間のせいで、取り返しのつかないことになっていたかもしれないんですよ」 「ミツアシさん」  それまで黙って樹の後ろに控えていた雪代が、思わず声をかけた。
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