第1話

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 まず、こっちの「星井夏樹」のこと。 1・妹の彼氏だったはずの青野と付き合っている。 2・DTじゃない。 3・「わがままプリンセス」と呼ばれるほどわがまま。 4・男子とも女子とも付き合った経験あり。 5・かなり浮気性っぽい。 6・浮気するたびに、バレバレな言い訳をする。 (で──) 7・青野を口説いたのは俺。 「最悪だ……」  こっちの俺、ひどすぎないか?  自分から口説いたにも関わらず、いざ恋人同士になったら浮気しまくりってことだろ?  浮気だけでも最悪なのに、それって……それって…… 「はぁぁぁぁ」  なんかごめん、ごめんな、青野。  こっちの俺にそんなめに合わされているのに、俺、今日お前の急所を蹴飛ばして、左頬にグーでパンチしちゃったよ。 「そうだ、謝んねーと」  ナナセに連絡先を聞こうと立ち上がりかけて、ふと自分のスマホを開いてみる。  恋人同士ってことは、すでに連絡先が登録されているかも。  で、案の定メッセージアプリには青野のものとおぼしきアカウントがあった。 ──「今日はごめん」 ──「頬っぺ大丈夫?」 ──「ちゃんと冷やせよ」  送ると、すぐに既読がついた。  けど、青野からのリプライはない。  待っている間、同じアプリ内の「アルバム機能」を開いてみた。  写真がずらりと表示された。  そのほとんどが青野とのツーショットだ。ほぼ無表情の青野と、嬉しそうに笑っているこっちの世界の俺。 (ああ、うん……)  この笑顔、この距離感。  ほんとに付き合ってるっぽいな、俺たち。  でも、ごめん。  やっぱり「俺」は、青野のことをどうしても恋人には思えないんだ。  妹の、ナナセの恋人。それが俺にとっての「青野行春」なんだ。  だから、どんなにこっちのナナセが「青野を恋愛対象として見ていない」と言ったところで、あっちの──俺の本当の妹の顔がどうしてもちらついてしまう。そんな状況で、青野と恋人関係でいられるわけがない。 (そもそも青野が可哀想だ)  こっちの俺に口説かれて、なのに何度も浮気されて。  俺が青野の立場だったら、絶対に耐えられない。 (だったら、こうなったら……)
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