第2話

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 「唐揚げ大盛りデー」ということもあって、学食は大賑わいだった。  これは、さっさと食ってさっさと席を譲らないとひんしゅくかいそうだな。ってことで、俺としては黙々と食べるつもりでいたんだけど、これがなかなかうまくいかない。食ってるそばから、いろんな連中が声をかけてくるせいだ。 「星井〜、青野くんと別れたって?」 「だったら私らと遊ぼうよー」 「聞いたぞ。お前、今フリーだって?」 「やったじゃん、これから遊び放題だな」  いやいや、勘弁してくれよ。俺は、こっちの世界の俺とは違うんだ。身持ちは固めで、キスもまだ。好きな相手以外とどうこうなるなんて絶対に考えられないんだからな! (……あれ、でも「遊ぶ」って、本当にただ遊ぶだけかな)  それなら、まあ、有りなのかな。こっちの世界の俺は、バイトもしていなければ塾にも通っていないみたいだし。 (つーか俺、ずっとこのままなのかな)  本当は、少し期待していたんだよな。朝、目が覚めたら元の世界に戻ってるんじゃないかって。  でも、そんな都合のよいことは起こらなかった。  俺の目はあいかわらず緑色で、ナナセや両親も同じで、青野は駅の改札口で不機嫌そうに俺を待っていた。左頬に湿布を貼って。 (まあ、明日からはそれもなくなるか)  青野は、もう俺を迎えには来ない。昼休みに俺の教室を訪れることもない。  つーか校内ですれ違うことすらなくなるかも。学年が違えば、そうそう顔を合わせることもないもんな。  ちょっとだけ寂しい──そう感じるのは、たぶん俺が「元いた世界の青野」を好ましく思っていたからだ。礼儀正しく丁寧で「妹の彼氏」としては百点満点だった。そんなあいつの面影がちらつくから、こっちの青野と没交渉になることを、つい惜しんでしまうんだよな。  ほんと、おかしな話だよ。あっちの青野とこっちの青野は、似ているようでずいぶん違うのに。  ああ、くそ。また今朝の青野を思い出した。  「別れよう」って伝えたときの表情。癖のある髪。深くうなだれたあと、わずかに波打った肩のライン。 (やっぱ、戻りたいな)  あっちの世界に戻れれば、あっちの青野に会えるんだ。「妹の彼氏」であるあいつとなら、ふつうに顔を合わせられるはずだし。  でも、どうすれば戻れるんだろう。  つーか、そもそもなんで俺、パラレルワールドに来ちまったんだ?  こういうのって、ふつう何かきっかけがあるものなんじゃねーの? たとえば「大地震が起きた」とか「交通事故に遭った」とか「絶体絶命のピンチに陥った」とか、そういう感じの── (……ん?)  チリッ、と何かが頭をかすめた。電波状況が悪いときの、あるいは容量が重すぎたときの、中途半端にフリーズしたような、ところどころにモザイクがかかったみたいな映像。 (あれは……階段?)  そうだ、西階段の一番上──行き止まりになっているところ。  そう認識したとたん、俺は妙な胸騒ぎを覚えた。  あそこだ。あそこに行かなければいけない。西階段のあの場所に、なにかヒントがある気がする!  すぐさま残りの唐揚げをたいらげると、皆に「先に戻る」と伝えて学食を出た。  気が急いた。  早く早く、と誰かが俺の耳元で囁いた。  戻りたい──そう、俺は元の世界に戻りたい。  皆の目の色が黒い世界。俺が「チャラっぽいキャラ」ではあっても実際にはチャラくなくて、青野が「妹の彼氏」である世界。
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