157人が本棚に入れています
本棚に追加
西階段を一気に駆け上がり、ようやく一番上の踊り場に辿り着く。
「ここだ」
間違いない。さっきチラッと頭をかすめたのはこの場所だ。
なのに、いざこうして立ってみると、今度は戸惑いが芽生えてくる。
「ええと……このあとどうすればいいんだ?」
実を言うと、俺は未だに一昨日のことをほとんど思い出せていない。
さすがに、学校に行って授業を受けたことくらいは覚えているけど、そのあとの記憶は見事まっさらなまま。つまり、18時間くらい記憶の空白があって、そこから「いきなり朝! 別世界に来たぜ!」って状態なんだ。
そうなると、やっぱりその「まっさらな18時間」の間に何かが起きたんじゃないかって推測したくなるだろ?
で、その「何かが起きた場所」が、ここかなって考えたんだけど。
「うーん……」
まいったな。「何かありそう」って気はするのに、それ以上のことはさっぱり思い出せない。
いっそ、ここから転がり落ちてみるか?
映画や漫画とかではよくあるよな。なんらかの衝撃的な事故やトラブルによって「パラレルワールドに飛ばされました」的な──
「いや、無理だっての!」
そんなの、失敗したら大惨事だ。大怪我を負ったり、下手すれば命に関わるかもしれない。
「やめとこう」
だって、ほら! この西階段で「何かありそう」っていうのも、単なる俺の勘違いかもしれないし! もしかしたら、明日こそは目が覚めたら元の世界に戻っているかもしれないし!
そんな期待値薄めの淡い希望を胸に、俺は階段を下りることに決した。
ちなみに、ここ西階段は校舎の端にあるせいか、昼休みでも人の行き来があまり多くない。このあたりをうろついているのは、すぐ近くの教室に用事があるやつか、個人的な事情から誰かを呼び出すようなヤツくらいで──
「青野くん、来てくれてありがとう」
そう、こんなふうに誰かに「告白」するような──
(……うん、青野?)
今、青野って聞こえてこなかったか?
最初のコメントを投稿しよう!