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とりあえず、今朝起きたことから順番に説明しようか。
まず朝、俺はいつもどおり自分の家のベッドで目を覚ました。妹のナナセが、それはそれは乱暴に部屋のドアを叩いたせいだ。
「おにーちゃん起きなよー! また遅刻するよー!」
「また」ってなんだよ。俺はこれまで一度も遅刻したことないっての。
思えばこの時点ですでにおかしかったんだけど、俺は単に妹の口がすべっただけだろうってその違和感をスルーした。
じゃあ、どこで異変に気づいたかって?
洗面所だ。「眠い〜」ってボヤきながら、いつもどおり顔を洗おうとしてギョッとした。
「へっ……髪?」
なんで俺の髪の毛、金髪になってんの? 昨日まで、明るめの茶髪だったじゃん。いつ染めた? どういうこと?
洗面所の鏡をまじまじと覗き込んだ結果、さらに驚くべき事実が判明した。
「なんだ、この目」
見間違いかな、と目をこする。
けど、何度見なおしても同じだ。俺の目、緑色になってる。
なにこれ、病気? 俺どうかした?
あ、昨日ほうれん草を食い過ぎたせいか? ほら、たまに聞くだろ。「ミカンをたくさん食ったら手が黄色くなった」とか。いや、でも、あれもさすがに目の色がオレンジにはならないわけで──
半ばパニック状態に陥っていると、ナナセが「なにやってんの」と顔を出した。
「ぎゃ──っ」
今度こそ、俺は悲鳴をあげてしまった。だって、ナナセの目も緑だったから。
でも、待て。妹のことだ、まだカラコンの可能性もある。
内心悪あがきだって気づいていたけれど、一縷の望みを胸に、俺はリビングに顔を出した。
「遅かったな、夏樹」
「早くごはんを食べなさい」
──ああ、うん、やっぱり。
父さんも母さんも、俺と同じ緑の目をしていた。
(なんだよ、これ)
俺ら、昨日までふつうに黒い目だったよな?
なのに、なんでみんな驚かねーの? どう考えてもおかしいだろ。
朝食を前に呆然としていると、ナナセが「お兄ちゃん?」と怪訝そうな声をあげた。
「なにボーッとしてんの。早く食べないと、また青野に怒られるよ」
青野? 青野って誰?
俺、お前の彼氏以外に「青野」って名前のやつ知らないんだけど。
青野行春──ひとつ年下の妹のクラスメイトで、かれこれ半年ほど前から妹と付き合っている。
すげー真面目ないいヤツで、ナナセと付き合うことになった日、わざわざ俺のところに挨拶しにきてくれた。「妹さんと付き合うことになりました、よろしくお願いします」──って、そんなの歴代の彼氏に一度もされたことなかったから、びっくりしたし「律儀だなぁ」って感心した。あと、ちょっと嬉しかった。それだけナナセのことを大事にしてくれてるんだなーって。
それ以降も、顔をあわせると必ず会釈してくれる。俺なんて、ただの「カノジョの兄貴」に過ぎないのに。
その「青野」が怒る? 俺に? なんで?
いや、やっぱりあの青野じゃないのかも。
だったら納得がいく──けど、その場合どの青野が俺に対して怒るんだ?
そんな疑問を抱えたまま、俺はナナセと家を出た。俺らは通っている高校が同じなので、駅まで一緒なのはめずらしいことじゃない。
ただ、その先は別行動だ。だって、駅には──
「おっはよー、青野」
そう、こいつの彼氏が待っている。
すごいよな、たしか青野の家ってうちとは反対方向にあるのに、毎朝わざわざこうして駅まで迎えに来てくれるなんて。こういうの「スパダリ」とかいうんだろうな。俺にはとうていマネできねーや。
なんてことを考えていたら、ナナセが「じゃあね」と先に歩き出した。
ハイハイ、早く彼氏のもとに行きたいわけね。朝から仲良しじゃん、ごちそうさま。
ところが、ナナセは青野のもとには向かわず、ひとりでホームへの階段をのぼっていってしまった。
あとに残されたのは、俺と妹の彼氏のみ。
いやいや、どうした? なんでこの状況?
なのに、青野は当たり前のように「行きましょう」と歩き出した。
え、今の俺に言った? 俺と青野が、一緒に登校するの?
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